地域とともに沖縄の新しい観光モデルをー日本トランスオーシャン航空 代表取締役社長 青木紀将氏
アフターコロナはエシカルな観光ニーズに注目
1人1人の人生が豊かになるワークスタイルで持続可能な地域発展に寄与
青木 10月以降の予約は少しずつ動き始めていますが、12月でも19年度同時期対比で5割に届いていません。キャンペーン等も展開し、年内には19年度対比の6割を超えて新年に弾みをつけたいですね。
リモートワークの定着やオンライン会議の普及でビジネス旅行は減少しているものの、ワーケーションや2地域居住のための下見ツアーなど、新たな需要も増えつつあります。また、インバウンドは減少していますが、これまで海外に向いていた国内のお客さまが離島へ旅行されるケースも多くなっているため、海外とは異なる離島の魅力を訴求してリピーターを増やしていきたいと考えています。
インバウンドの復活は来年度以降になるでしょう。東アジアの方にとって沖縄は日本の玄関口ですので、コロナが明ければその需要は戻ってくると思っています。今後、沖縄の新しい観光モデルを訴求しなくてはならないターゲットは、欧米のエシカルな意識を持った人々です。JLグループとしてのグローバルな発信力を活用して進めていきたいと考えています。
SDGsが社会に浸透したことで、これからは社会への貢献や地域と関り繋がりを感じることができるエシカルな観光のニーズが高まってくるでしょう。例えばサンゴ再生支援ではその後のサンゴの成長を、首里城再建支援では自分の寄付がどこに使われたかを見に行くなど、支援の見える化を図り、常に沖縄との繋がりを感じていただけるような情報を旅前・旅中・旅後を通して発信し、1度きりで終わらない新しい旅の形を提案していきたいと考えています。
青木 登録後のアクションにあたっては、国内の他登録地における登録前後の観光入域者数の推移や課題を徹底的に調べました。どの地域も登録直後は大幅に観光客が増えますが、長期的には登録前より若干底上げされたレベルで落ち着きます。課題は登録直後のオーバーツーリズムによる環境破壊、長期的には環境保全と持続可能な地域活性化の両立です。解決には登録地の過疎化対策としての雇用の継続や人材育成、新しい観光のあり方の検討など、行政、自治体、地域の連携が必要です。
その解決策の1つとして取り組んでいるのが、やんばる電気バスツアーと西表島エシカルツアーです。単なる観光地巡りに止まらず、自然や文化を学びながら環境保護・保全活動に携わることに価値を感じていただくものです。
やんばる電気バスツアーでは、GSTC(世界持続可能観光協議会)基準を参考に自主ルールを設定し、環境保護と社会貢献を地域と連携しながら行う仕組みを構築しました。電気バスはCO2排出ゼロかつ最高時速20kmで環境に配慮し、オーバーツーリズム防止のため定員は最大19名で設定。添乗するのは国頭村認定ガイドの方々で、地元の雇用創出にも繋がっています。ツアー料金の一部はやんばるの環境保全に寄付するため、お客さまが環境を考えるきっかけになると同時に、環境保護に関わることを実感できるようになっています。
西表島では漂流ゴミが問題になっています。私もビーチクリーンに参加しましたが、絶え間なく漂着する大量のゴミの約8割がペットボトルで、島内では処分できず島外へ輸送しており、ボランティア活動では限界があると感じました。現在、ビーチクリーンを観光メニューにしたエシカルなモニターツアーに取り組んでいます。
また、世界自然遺産の推進活動は、県内の47の企業で結成した共同企業体としても行っています。今なお発生する希少動物の交通事故(ロードキル)や密猟・密輸に対しては、企業体の施設のWi-Fiを使い、観光客へ環境保護のマナーを啓発するプロジェクトを進めています。
今回の自然遺産登録は、沖縄の生物の多様性や希少性が評価されたと同時に、それを守っていくことを世界に向けて宣言したことだと思っています。そのために大切なのは企業の独りよがりではなく、地域とお客さまのニーズを汲み取った、実効性が高くかつ持続可能なプランを幅広く実行していくことではないでしょうか。
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