【ホテル総支配人リレーインタビュー】第9回 ザ・キャピトルホテル 東急総支配人 末吉孝弘氏

  • 2021年10月7日

安売りに走ればラグジュアリーホテルの未来を失う
待遇改善と地位向上でより良いサービスの実現を

-コロナ禍によって平均客室単価はどう変化しましたか。

末吉 単価はほぼ変わっていません。価格を下げるのは簡単ですが、総支配人の方針として安売りはさせていません。各方面から叱られますし、「客室の空気は売れないのだから稼働率を上げるべき」との意見もありますが、それをすれば人手がかかり、逆に経費がかさんで完全に骨折り損のくたびれ儲けになります。そして評判も落ちる。落ちた評判を取り戻すには落とした期間の3倍から4倍はかかることを経験で知っているので、絶対にそれはしたくないと考えています。

-顧客サービスの低下につながるようなコストセーブも行っていないということですか。

末吉 はい。外部契約の内容をもう一度精査し、クオリティをチェックするといった対応はしています。しかし人手をかけるべき点、お金をかけるべき点にはむしろ力を注いでいます。例えばクラブフロアはコロナ前よりコストをかけています。

-確かに、スタッフを探さなければならないようなホテルが多い中で、きっちり人員が配置されていることに驚きました。

末吉 お金勘定の観点だけならスタッフが多すぎでしょうが、お客様に「このホテルは違う」「クラブフロアはどこも充実はしているけれど、ここは並外れている」と思っていただきたい。そういう評判を獲得するには今が大チャンスです。実際に結果も出ていて、「一休.com」の口コミ評価は東日本のホテルで1位。しかも過去にない高い評価点です。コロナ禍中にグングン評価を上げているのはなぜか、他のホテルは不思議に思っているでしょう。つまり、無駄な経費は徹底して削減するが、「生きた経費」は使い、次のチャンスに備えるメリハリを意識しています。

-クラブフロアは以前と何が変わったのでしょうか。

末吉 私は食べることが大好きで、「一番美味しいものは何か」と考えることがあるのですが、答えは出来立ての料理だと思っています。ところが色々なホテルのクラブラウンジを見ても、出来立ての料理を出すところはありません。そこで2年前の改装を機にラウンジに鉄板焼の調理器具を導入し、出来立ての料理を提供するようにしました。調理担当者の配置などコストは上がりましたが、そこはこだわるべき部分だと考えています。

クラブフロア・スイートルームの宿泊者専用ラウンジ「The Capitol Lounge SaRyoh」

-外国人需要は当面望めませんが、国内客増のためにはどのような施策を打ち出していますか。

末吉 先ほど説明したように、ホテルの評価向上は戦略的な取り組みであり、それが結果として日本人客や日本人富裕層の獲得につながり、継続的に選んでもらえるホテルになれると考えています。

 また、このホテルだからこその価値を提供できるプラン作りを目指しています。色々なアイデアが上がって来ますが、目新しさや流行ではなく、「その企画はザ・キャピトルホテル 東急でやる必要がある企画なのか」をもう一度考えてみてほしいと伝えています。

-今年3月にプリファードホテルズ&リゾーツの「レジェンドコレクション」に認定されました。ラグジュアリーホテルの総支配人として最も重視してきたことは何ですか。

末吉 このホテルのある地域と、ストーリーへのこだわりです。海外でホテルセールスをすると、施設内容を説明しても関心を持ってもらえない。ところが「ホテルに泊まれば周辺でこんな体験ができる」「2年以上前からプラスチックのストローを木製に替えてSDGsに真剣に向き合っている」といった話をすると関心を示してくれます。ホテルが立地する地域の魅力を売る。あるいはホテルのスピリットを売る。現代のラグジュアリートラベラーはそこにきちんと反応し選んでくれると信じています。

 フロント担当者には「君たちの本当の仕事は客室のカギを手渡すことではない。日本への扉、あるいは地域への扉を開くカギを渡す仕事をしている。だから日本やこの地域についてもっと勉強しなさい」と言っています。

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