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豪州の「今」を駐在員の視点から-共生かゼロか、足並みの揃わぬコロナ出口戦略

オーストラリアのコロナ対策の出口戦略

 スコット・モリソン首相は8月6日、国家内閣により「コロナ対策の出口戦略」と題する国家計画を正式決定しました。これはワクチンの接種状況により規制緩和を段階的に進める内容となっています。

段階A(現在の段階)
ワクチン接種、準備及び試行 ・ワクチン接種の加速
・国境閉鎖
・アウトブレイク時の早期の厳しい短時間のロックダウン
・効果的な検査・追跡・隔離により市中感染を最低限に抑える
・できるだけ早く全てのオーストラリア人必要数のワクチンを提供
・インバウンド旅客の一時的な人数制限
・ロックダウンによる国内旅行の制限
・ワクチン完了の帰国者の自宅隔離を含めた隔離方法のトライアル
・学生及びビジネスビザ保有者の限定的な入国許可のトライアル
・既存の電子化されたメディケア(オーストラリアの医療システム)ワクチン証明書の運用
・国境でのデジタル・ワクチン認証を構築
・ワクチンのブースター接種の準備
・国内ホテル隔離ネットワークの更なる見直し推進
市中感染を最小限に抑える目的でコロナウイルスに対する強力な抑制を続ける
段階B(ワクチン接種率70%)
ワクチン接種移行段階 ・ワクチンの高い接種率の維持、インセンティブまたはその他の方法によるワクチン接種奨励
・継続的な低レベルの規制と効果的な感染経路追跡による市中感染の抑え込み
・都市封鎖(あまり発生しないが可能性はある)
・COVIDの流入を防ぐための安全で適度な隔離を伴う入国者数制限と限定的な入国許可
・ワクチン完了者に対する規制緩和
・ワクチン未完了の帰国者に対し以前の入国制限レベルに戻し、ワクチン完了者の帰国に対してはより大きな上限とする
・ワクチン完了者に対する新たな隔離方法の導入
・ブースター接種の準備
コロナ感染に伴う重篤な病気、入院及び死亡を最小限に抑えるように努める
段階C(ワクチン接種率80%)
ワクチン接種強化段階 ・ワクチン接種状況を最大限に高める
・ロックダウンをせずに症例数を最小化するように調整された持続的な基本規制の最小化
・非常に的を絞ったロックダウン
・ブースター接種計画を継続
・ワクチン完了者をすべての国内の規制から解放
・ワクチンを完了したオーストラリア人の帰国数の上限を撤廃
・学生、ビジネス及び人道的査証保有者の入国の上限を上げることを許可する
・ワクチンを完了したオーストラリア人の出国に関する全ての規制を解除
・新しい候補国(シンガポール、太平洋諸国)へ規制のないトラベル・バブルを拡大
・安全な国のワクチン完了者に対する調整された隔離、規制緩和を含む、段階的な入国・出国の国境再開
コロナ感染に伴う重篤な病気、入院及び死亡を最小限に抑えるように努める
段階D
最終段階 ・国境の開放
・高リスクの入国者に対する隔離
・既存の規制やロックダウンを伴わない市中感染数の最小化
・インフルエンザや他の感染症と同等の管理によるCOVID-19との共生
・必要な数だけブースター接種を実施する
・ワクチン完了者を隔離なしで入国許可する上限を撤廃
・渡航前及び到着時の検査を条件として、ワクチン未完了者の入国数上限を撤廃
他の感染症と同様に新型コロナ感染症を管理

 この出口戦略では、従来の事実上の「新型コロナウイルス・ゼロ戦略」を脱却し、新型コロナウイルスと共生していく道を提示しました。これはデルタ株のように感染力の強い変異株の出現により、感染を完全に封じ込めることが困難になったこと、またワクチン接種率が上がっており、11月下旬には70%、12月下旬には80%の接種率を達成する目途が立ったことに起因しています。

 さらに8月22日にモリソン首相は、政府の焦点を症例数から重症患者数へシフトする提言を行いました。ワクチン接種率が上がり規制が緩和される際に一時的に増えることが予想される感染者数を見越し、いかに重症化を防ぎつつ従来の生活を取り戻していくかの方が大切である、と方針転換を示しています。

懸念される州間の緩和格差

 オーストラリアは8つの州・準州からなる連邦制となっており、それぞれの州・準州政府が大きな権限を持っています。州境の閉鎖、都市のロックダウン等も各州政府で決定することができ、今回のコロナ禍では、機動的で強力な対応策を打ち出すことができました。それが、人口が少ないとはいえ広大な国土を持つオーストラリアで、1年近くに渡ってコロナゼロに近い状態を保つことができた要因の1つと言うことができます。

 一方、この強力な州政府の権限は、オーストラリア全体として方針を定めても、それぞれの州・準州の政府の考え、場合によっては政治的な思惑により、1つの方向に全体として進めないというデメリットが発生します。

 前述の出口戦略は、オーストラリアの全州の州政府の合意の下決定されたものですが、その後クイーンズランド州、西オーストラリア州は国境の再開に慎重な姿勢を見せてきています。同2州は労働党政権の下、徹底した州境管理で新型コロナウイルスの感染を封じ込めてきた実績があり、その慎重な政策も州内の多数の有権者に支持されています。これに対し、オーストラリア連邦政府と同じ保守連合が政権を担うニューサウスウェールズ州、南オーストラリア州政府は、連邦政府の出口戦略に沿って積極的に規制の緩和を進めていく方針です。

 また、州の間で接種の進捗状況に大きな差が出始めてきており、ワクチン接種完了者が成人の80%を超えるのは、ニューサウスウェールズ州では11月中旬、クイーンズランド州では12月中旬と予想されています。

 こういった足並みの乱れが顕在化した中、9月8日にモリソン首相はオーストラリア国民に対し、ワクチン接種率が80%に達した州から国境を再開する、との認識を示しました。つまり、ニューサウスウェールズ州のシドニー空港は国境を再開し、クイーンズランド州のブリスベン空港は国境を閉鎖したまま、ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の間の移動は禁止、ということが起こるもしれません。

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