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旅館は崇高なビジネス、春は必ず来る―道後温泉旅館協同組合理事長 新山富左衛門氏

環境や防災、感染予防対策で積極的な取り組みを展開
アートイベントで若者の訪問者が増加

-現在の旅館の流通をどのように見ていますか。

新山 これまで日本の旅館は安すぎたと思っています。江戸時代、銭湯にゼロひとつをつけたら髪結の値段。髪結にゼロをつけたら旅籠の値段と言われ、これが江戸時代の経済学でした。それと比べると、現代は低すぎる。もっと生産性を上げて、利益を上げる必要があるでしょう。

 旅館業のなかで過当競争が起き、合わせて中間業の旅行会社も過当競争を行いました。そのなかで、OTAが代わりに参入してきました。OTAによって集客力は高まる一方で、手数料やOTAのポイント還元が宿泊施設に負担としてかかってくる。たとえば、1万円の宿泊料であれば、手数料13%ほどに加えてポイント還元として5%ほど上乗せされるため、2割ほど引かれてしまいます。さらにキャンセル料についても、お客様に直接請求する必要があります。

 一方、リアル旅行会社では、お客様から相談コンサルティング料を取れない代わりに、宿泊施設から手数料という形で徴収しています。それでも、一生懸命に説明して、商品を売っていただけるので、血の通わないシステムに手数料を払うよりも、旅行会社と付き合う方がいいかもしれません。旅行会社は「プロの旅行コンサルタントである」ともっとアピールしても良いのではないでしょうか。

 旅館は本来メーカーです。しかし、今はそのメーカーに価格決定権がなく、下請けのようになっています。OTA独占の現状を打破しなければならない。その流れは出てきていると思います。新しい流通プラットフォームも必要になってくるでしょう。

-最後に、読者である観光事業者に向けてメッセージをお願いします。

新山 宿泊だけでなく、バスもタクシーも旅行会社も非常に厳しい状況が続いていますが、必ずコロナは収束しますし、この困難を乗り越えることはできると思います。旅行は平和産業です。平和になれば、旅行が再開し、交流が生まれます。SNSで友だちになれば、リアルに会いたいという行動が必ず起きます。人間はデジタルだけでは絶対に満足できません。それが人間の本質だと思います。

 大浴場は、その交流の最たる場所です。隣の知らない人と裸のつき合いが生まれます。その場所を提供する旅館がなくなるわけがありません。旅館業は崇高なビジネスです。春は必ず来ます。

-ありがとうございました。