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旅館は崇高なビジネス、春は必ず来る―道後温泉旅館協同組合理事長 新山富左衛門氏

環境や防災、感染予防対策で積極的な取り組みを展開
アートイベントで若者の訪問者が増加

-SDGsに関する意識は高まっているでしょうか。

新山 道後でも現在、なるべくプラスチックのストローを使わない動きが出ています。SDGsが注目される以前から、環境への意識も高く、たとえば、松山市の条例で「3010運動」を展開しています。これは、宴会などで最初の30分は着席して食べて、それから名刺交換など行い、最後の10分も着席して食べる。つまり、食品ロスを減らす運動です。実際のところ、松山市は家庭ゴミが日本一少ない市にもなっています。

 また、地産地消や地元造り酒屋保護の観点から、地元のお酒による乾杯を推奨する「乾杯条例(松山の地酒の普及並びに食文化の継承及び振興に関する条例)」もあります。

-道後地区の観光産業の現状はいかがでしょうか。

新山 現在のところ、廃業や倒産した旅館はありません。みんなで助け合っています。それぞれ内部留保を持っていたため、経営に余裕があったのが大きいでしょう。劣後ローンを借り入れたところもありますが、旅館は装置産業で担保力もありますから、地元の地銀なども安心して融資してくれます。

 個々の宿泊施設の経営はしっかりしており、それぞれが利益構造を作れるように努力してきました。今年度は宿泊客50万人と低い目標ですが、これがずっと続くわけではない。道後地区の旅館はすべて、旅館業は将来性があると思っていますから、未来に悲観はしていません。

 その未来に向けて、いろいろな取り組みも進めています。たとえば、防災士を各旅館に1人置く取り組みを行っており、現在全体の7割まで配置が終わりました。また、東日本大震災の際に携帯電話がつながらなかったことを教訓に、アマチュア無線技士の育成も進めており、すでに全体の5割ほどの旅館に資格者がいます。

 このほか、感染症対策にも力を入れており、管理職以上を対象に毎月専門家を呼んで講習会を実施しています。道後地区の旅館だけでなく、約1,700社の取引先とともに感染予防対策を進めています。組合員32軒すべて、落ちこぼれを出さずに、コロナを乗り切っていく。取引先も含めて、みんなで地域を守っていこうというのが道後の目標です。これまでのところ、道後地区からは一人の感染者も出していません。

-道後温泉はアートを通じた地域活性化も進めています。

新山 最初にアートイベント「道後オンセナート」 を開催したのは、道後温泉本館改築120周年の2014年で、大還暦イベントとして企画。今注目されている「瀬戸内国際芸術祭」よりも先に手掛けました。その後、道後を訪れる客層が変わりました。それまで若者層は少なかったのですが、女子旅、女子1人旅が増え、日帰り客も増えました。アート目的の予約は比較的早い傾向も出ていました。

 瀬戸内国際芸術祭は、3年に1度のトリエンナーレですが、道後オンセナートは毎年開催されていますので、リピーターも増えています。2019年からは東京芸術大学の日比野克彦教授を迎えて、「道後アート2019・2020 ひみつジャナイ基地プロジェクト」を今年2月まで実施しました。2021年度から2023年度にかけては、2024年の本館改築130周年に向けて、「アート×人×温泉」で地域活性化を進めていきます。

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