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旅館は崇高なビジネス、春は必ず来る―道後温泉旅館協同組合理事長 新山富左衛門氏

環境や防災、感染予防対策で積極的な取り組みを展開
アートイベントで若者の訪問者が増加

 愛媛県松山市の道後温泉は、「日本書紀」や「万葉集」にも記載された古湯。公衆浴場「道後温泉本館」は国の重要文化財にも指定されている。愛媛県を代表する観光地として全国から旅行者が訪れる名湯も、コロナ禍で大きな影響を受けた。訪問者は激減しているが、「道後地区みんなで助け合っている」と古湧園社長で道後温泉旅館協同組合理事長を務める新山富左衛門氏。アフターコロナをどのように見据えているのか。現状認識と合わせて話を聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

新山氏
-まず、道後温泉旅館協同組合の活動についてお聞かせください。

新山富左衛門氏(以下敬称略) 道後温泉旅館協同組合は、組合員の相互扶助の精神に基づいて、必要な共同事業を行うとともに、組合員の自主的な経済活動を促進しています。主な事業としては、共同施設の維持管理、物品の共同購入、広告宣伝、教育研修などを行っています。また、情報の収集、共有、発信など、組合員の業務向上にも努めています。

-ご自身の自己紹介もお願いいたします。

新山 東京の大学を卒業した後、1977年に古湧園に入社しました。東京事務所長を務めた後、2010年5月に社長に就任しました。事業としては、「ホテル古湧園 遥」の運営のほか、いくつか小売業も展開しています。主な所属団体としては、道後温泉旅館協同組合の理事長のほか、日本旅館協会四国支部連合の相談役、愛媛県経済同友会では昨年まで代表幹事を務め、現在は特別幹事として関わっています。

-昨年の道後地区への観光客数を教えてください。

新山 松山市への入込客数は2019年度に過去最多の600万人を超えました。そのうち、日帰りも含めて、道後地区には3分の1の200万人が訪れたと見ています。宿泊については、その3割から4割ほど。2018年度が約78万人、2019年度は約73万人でした。しかし、2020年度はコロナの影響で一気に約41万人に落ち込んでしまいました。

 今年度については、今のところ前年度の同時期より状況はいいですが、先は不透明なままです。旅館組合としては、毎年宿泊客80万人を目標にしていますが、今年度は50万人ほどと見込んでいます。

-インバウンドの取り組みはいかがでしょうか。

新山 インバウンドについては、一気に増えるとオーバーツーリズムの問題もあるため、こちらかは攻めていかず、自然増を目指しました。マーケット別では、一番多いのは台湾で、欧米からの旅行者も増えましたが、個人型ではなく団体ツアーが多いようです。そのツアーも道後を目的地とするものではなく、いわゆるキャピタル型で、大阪や福岡に入って、周遊の途中で立ち寄るコースが多く見受けられました。

 最近、瀬戸内海が注目を集めています。その流れに乗って、広島や瀬戸内海を巡って、道後に宿泊する「新ゴールデンルート」をアピールし、これから頑張っていこうという矢先にコロナに見舞われました。

 2025年には大阪万博が開催されます。瀬戸内海も大きく関わってくると思います。期間も半年と長いため、その間に道後をはじめとする四国に来てもらう流れを作っていきたいと思っています。それに向けて、世界遺産を目指している四国88ヶ所、瀬戸内海の727の島々、城、西日本最高峰の石鎚山など、グリーンツーリズムなどを絡めて訪日向けのコンテンツを再考していくことが必要になるでしょう。また、瀬戸内海の海洋保護も念頭に置きながら、SDGsをテーマにした観光振興も進めていきたいと思っています。

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