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【弁護士に聞く】「大麻体験ツアー」は日本で許されるのか

  • 2021年7月14日

「大麻解禁国を訪問する『大麻体験ツアー』の日本での募集は許されるか」

 大麻は、日本では大麻取締法により医療用も含めて栽培、所持、販売等が厳しく禁止されている。しかし、米国では「嗜好品としての大麻は、2018年2月までに、首都と9州(ワシントン州、コロラド州、アラスカ州、オレゴン州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ネバダ州、メイン州、バーモント州)で合法化され、2020年12月までには、3州でのみ医療大麻が利用できず、15州で娯楽大麻が容認されている」(Wikipedia)という。オランダでは古くから、カナダでも最近、嗜好品として解禁された。

 そこで、日本でも大麻に興味をもつ若者が増えて検挙者も増えていることから、質問のようなツアーは道徳的には別にして、相当の需要が見込まれるかも知れない。

大麻使用は適法な旅行サービスか?

 旅行業務取扱管理者の資格を有する者ならば、直ちに旅行業法第13条を思い浮かべるだろう。

 同条3項は、「禁止行為」という表題の下に、旅行業者等及びその従業員が、「旅行者に対し、旅行地において施行されている法令に違反する行為を行うことをあっせんし、又はその行為を行うことに関し便宜を供与すること」を禁止している。しかし、解禁国(州)では、大麻は嗜好品として使用することが合法化されているから、「旅行地において施行されている法令に違反する行為」に該当しないことは明らかである。

「国外犯」規定に注目を

 旅行業法上問題がなければ、あとは社会的非難をどうかわすかと考えるかも知れないが、注意しなければならないのは、刑罰法規の国外犯規定である。

 刑罰法規は日本国内の犯罪に適用されるのが原則(属地主義)だが、国際的に共通する思想として、補充的に自国国民による特定の国外犯(放火、殺人、傷害等)を処罰するという属人主義(刑法第3条)と自国の重大な特定利益を害した国外犯(内乱、通貨偽造、日本国民に対する殺人、傷害等)は犯罪者の国籍の如何を問わずに処罰するという保護主義(刑法第2条等)が採用されている。国外犯規定は刑法に限らず、刑罰法規を含む特別法でも「刑法第2条の例に従う」という形で準用されているので注意が必要だ。

 大麻取締法を見ると、第24条の8が「第24条、第24条の2、第24条の4、第24条の6及び前条の罪は、刑法第2条の例に従う。」とある。刑法第2条とは、上述したように、犯罪者の国籍の如何を問わずに処罰するという保護主義によるという意味である。

 大麻取締法第24条の2は「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する」とされている。「大麻体験ツアー」に参加した旅行者が、使用するために大麻を購入し、所持すれば同規定に違反し、日本に戻ってきたときに、逮捕、起訴され「5年以下の懲役」で処罰の対象となることになる。

  他方、刑法第8条は、「この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する」とある。「この編」とは、刑法第1編総則を指す。刑法の「総則」は、あらゆる刑罰法規に共通の総則になるという意味だ。その総則の中に、刑法第62条には「正犯を幇助した者は、従犯とする」とあり、同第63条には「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する」とある。「正犯」とは、みずから犯罪を実行する者をいう。大麻取締法第24条の2でいえば、大麻を所持し、譲り受けたりした者が正犯になる。「幇助」とは、正犯の実行を精神的、物理的に助ける行為をいうから、「大麻体験ツアー」を実施した旅行業者は、外国における大麻の譲り受けを容易にしたことになるから、少なくとも大麻譲受罪の幇助犯に当たる。大麻摂取の意思のない者にツアー参加を積極的に勧め、参加させて現地で大麻譲受けを実行させれば、大麻譲受罪をそそのかしたことになるので、教唆犯(刑法第61条)に問われることになる。教唆犯は、「正犯の刑を科する」とあり、幇助犯より重い刑罰が予定されている。

 このように、外国では犯罪とされていない行為であっても、日本で犯罪とされている行為があることから、安易に現地で適法だからと手を出すことは手痛い結果になるかも知れない。なお、「大麻体験ツアー」を名打たなくとも、パンフ等で「目的地は大麻の使用が合法化されています」等の説明を行うだけで、日本で処罰される可能性については触れない場合も、幇助等に問われる危険がある他、民事的には説明義務違反等の責任を問われる恐れがあるので、注意が必要だ。

三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。