ディスラプターAirbnbの衝撃-シェアリングエコノミーを分析する

CtoCモデルのターゲットは全世界70億人
今後のエアビーの可能性を考察

死角はないのか?

 まず、エアビーの競合を見てみたいと思います。2005年に創業したHomeaway(ホームアウェイ)はエアビーよりも2~3年前に誕生していました。同社は2011年にナスダックに上場後、2015年にエクスペディアに買収をされ、現在ではVrbo(バーボ)というブランドでサービスを展開しています。そのほか、中国最大手のプラットフォーム途家(トゥージア)は中国で大きなシェアを占めています。

 最近では、ブッキング・ドットコムやアゴダ、さらに楽天LIFULL STAYなども民泊市場に参入してきています。OTAが出始めたころに数多くのプレイヤーが勃興した時と同じように、民泊でも多くのプレイヤーが参入しています。

 ただし、エアビーの掲載件数は圧倒的で他社の追随を許さない水準です。宿泊場所を提供する側からすると、ホテルと異なり少ない在庫(1室、あっても数室)を複数の民泊サイトに出せば管理が煩雑になります。そのため、最も販売力があるサイトのみに掲載しようというインセンティブが働くため、結果的にエアビーが選ばれるという構造にあると思います。

 他社がエアビーに対抗するには、手数料部分で圧倒的なメリットをつける、もしくはカテゴリキラーになる(例えば、ホームアウェイのように別荘カテゴリーに特化する、トゥージアのように1つの市場に圧倒的に特化する)などが考えられますが、現状ではエアビーの脅威とはなっていません。

エアビーとその競合比較
民泊サイト特徴
エアビーアンドビー・世界10万都市に560万、日本では約5万以上のリスティングを掲載(20年9月時点)

・都市型民泊(東京やニューヨークなどの大都市のアパート)に強みを持つ

・「体験」サービスは、世界1000以上の都市で5万以上、日本では約3000を提供(20年9月時点)

・最大1億円の補償もついており、ホストは安心して物件を貸し出すことができる
ホームアウェイ

バーボ
・世界190ヶ国、200万件以上の物件が掲載されており、毎月4000万人以上の旅行者にリーチできる

・エアビーとは違い、どちらかと言うと別荘や高級民泊の貸し出しに主軸を置いている
ブッキング・ドットコム

アゴダ
・エクスペディアのように別ブランドでは展開せず、ホテルと同じプラットフォームで民泊を販売

・あくまで宿泊施設の1オプションとして民泊を位置づけている
トゥージア・中国の民泊最大手

・中国におけるシェアは圧倒的

・2018年2月現在で、中国345都市、海外1037都市で65万件以上の物件を掲載


 さらにエアビーの優位性は、シンプルで使いやすいインターフェイスです。とても簡単で10~15分程度あればアップロードでき、全世界に売り出せます。そして、エアビーが部屋の写真を無料で撮影してくれるサービスがあったり、ゲストの過失で物品が破損し修理の必要がある場合は1億円まで保証してくれます。それゆえ、ホストは安心して部屋を貸し出せます。

 エアビーは、全世界的にOpenで双方向のネットワークを形成し、民泊と言えばエアビーと想起するほど強いブランド力を持っています。そのブランド力ゆえ、多くの部屋や宿泊場所を獲得でき、ユーザーが増えることで予約も増加します。それに加え、インターフェイス、プロセスの簡単さ、ホストを安心させる保証の仕組みがあります。今後もエアビー優位はそう簡単には崩れないと思います。

可能性

 今後、エアビーはどのような方向へ行くのでしょうか。まず、バリューチェーンで考えてみたいと思います。海外旅行を想定したフローで考えると、「フライト → 宿泊施設 → 交通・アクティビティ → その他(保険など)」の順で予約すると思います。

 そのうち、エアビーが勝負してきたセグメントは、宿泊施設であり、その中の民泊なわけです。すでにアメリカではエアビーでホテルも予約できるそうです。ここはOTAの脅威になります。1つ目の方向性としては、宿泊施設というカテゴリーにおいて、民泊だけではなく、ホテルも、タイムシェア等へも展開していくことが考えられます。

©Airbnb

 2つ目の方向性として、コロナ禍前からアクティビティ領域への展開を積極的におこなっています。すでに世界1000都市で5万件以上のアクティビティを掲載し、日本でも3000件以上が掲載(2020年9月時点)されています。その場所へ行かないと体験できないようなアクティビティだけではなく、オンラインでもできるような料理講座、ヨガなど家にいながらにしてできる体験にも注力しています。今後もオンラインのアクティビティやツアーを強化していくと考えられます。

 さらに、3つ目の方向性として、フライトの予約、鉄道やレンタカーなどの交通、保険などの領域にも参入していくのではないかと思われます。やはり1つのサイトで予約を完結できた方がユーザーとしても便利です。

旅行予約のバリューチェーン

 このように、総合的な旅行サイトへ変貌を遂げていくのではないかと思います。ただし、エアビーの良さである「暮らすように旅する」を失わない形で。

 先述の通り、インターネットやモバイル技術の進化、ボーダレス化によって、グローバルに個人が簡単につながる時代が到来し、CtoC(Consumer to Consumer)サイトが流行り始めています。ネットワークがネットワークを呼ぶように広がり、従来型のBtoB (Business to Business)ビジネスを破壊し始めていると言えます。例えば、新聞に対するSNSでしょうし、テレビに対するYouTube、さらにホテルやOTAに対するエアビーです。

 キーワードは「CtoC」「シェアリングエコノミー」「遊休資産の活用」です。

 今後、エアビーなり、Uberなり、Weworkなり、メルカリなり、流行ることはあれど、衰退することはないと思われます。所得の伸び悩みからも、所有をせずシェアで十分という流れはなくならないでしょう。

 コロナ禍で多くの産業・企業が停滞していると思いますが、コロナというトンネルを抜けた後には、新しい世界が広がっているかもしれません。シェアリングエコノミーに注目し、既存ビジネスとの対比構造で見ていくのも面白いと思います。是非、私のコラムを参考にして頂ければと思います。

赤井亮太
F-ness International(Singapore)代表取締役社長
2007年東京大学大学院卒業後、アクセンチュア経営コンサルティンググループ、mixi、Expedia等を経て、2018年エフネスに参画。2019年より、F-ness International(Singapore)代表取締役社長に就任。シンガポールから海外の販売先パートナー開拓などをおこなっている。