シンガポールの現状と旅行業界の展望(前編)-世界の「今」を駐在員の視点から

  • 2020年9月7日

感染増も的確な対策で混乱なし

感染者増加も、政府対策でパニックはなし

 そんな経済的な成長を謳歌していたシンガポールの状況が一変したのがコロナウィルスです。

 シンガポールはSARS (2003年)の経験から、台湾とともに非常に早くコロナウィルス対策を取り、コロナ対策で成功した国と言われています。実際には、2020年1月29日に中国湖北省からの入国規制(同2月1日には中国全土からの入国規制)、そして同3月24日には外国人の短期旅行者の入国を全面禁止しています。発着数が世界でも常にトップ3に入るチャンギ空港を持ち、外国からの滞在者が多くを占めるシンガポールでは異例の対応だったと思います。その対策が功を奏し、2月や3月のコロナウィルス感染者はごく少なく、毎日10~20人程度の感染者が出る程度でした。実際、4月1日時点で累計感染者が1000人程度でした。

 しかし、思わぬところからコロナウィルスが拡大を見せます。

 それは、シンガポールの建設現場などで働くためにシンガポールに来ている短期労働者です。シンガポールは経済発展のために、安い労働力を求めて、短期・中期の外国人労働者を大量に受け入れています。彼らは4万人とも5万人とも言われ、シンガポール国内にある複数のドミトリーで共同生活を送っています。そのドミトリーから感染爆発したのです。3月中旬以降、日に数百人のペースで増え続け、現在ではトータルで5万人を超えています(2020/8/24現在で、56,353人)。

 ただし、確かに患者数だけを見ると非常に多いのですが、シンガポール政府の対策は的確でした。下記がその例です。

徹底的なPCR検査
・特に、ドミトリーで生活をする労働者全員に対して検査を行い、感染拡大しないように努めた。さらに、政府の公表数字も市中感染者数とドミトリーの感染者数を分けて報告した
・結果として、シンガポール人も“トータル”の新規患者数には目が行かなくなり、冷静にドミトリーで何人、市中感染で何人と分けて把握するようになった。そのため市中感染が増えない限り、人々もあまり恐れなくなった
補償を伴ったロックダウン
(シンガポールではサーキットブレーカーと呼ぶ)
・3月中旬から6月中旬まで約3カ月、非常に厳しい都市封鎖を行い、徹底的に人の接触を減らしたが、同時に補償を行った。旅行産業・航空産業には期間中は一時給料の80%まで政府が補助したほど
・一方で、多民族国家をコントロールするため、外出時にマスクを付けなければ罰金300シンガポールドルを科すなど、多民族国家でもわかりやすいルールを設けた
徹底したトレース
・全ての店舗、ビルにSafe Entryを義務付けた。人は建物もしくは店舗に入る際に必ず、QRコードを読み込み、行動記録が政府に送られる仕組み
・これにより、コロナウィルス陽性者が出た場合に、その行動をトレースし、濃厚接触者を早期にあぶり出すことを可能にした

 これらの対策により、シンガポールのコロナウィルス感染者数は5万人を超える(そのうち、ドミトリーで生活する外国人労働者が4万人とも4.5万人ともいわれる)ものの、感染の初期段階で患者をあぶり出すことで重症化を防いでいるため結果として死亡者は極めて少なく、うまく抑え込んだと言えます。

世界感染者数 x 死者数 (2020年8月19日現在)

国名感染者数死者数死亡率
米国5,503,597171,8623.1%
ブラジル3,407,354109,8883.2%
インド2,767,27352,8891.9%
フィリピン169,2132,6871.6%
インドネシア143,0436,2774.4%
中国84,8884,6345.5%
日本58,4891,1482.0%
シンガポール55,938270.0%
韓国16,0583061.9%
出典:各国政府機関、各国報道、世界保健機関(WHO)、中国国家衛生健康委員会、ジョンズホプキンズ大システム科学工学センター

旅行業の現状は?

 とはいえ、コロナの感染拡大をコントロールできることと経済への影響を回避することは別物です。なかでも旅行業界は甚大なダメージを受けています。

 シンガポールの場合、国が小さく国内旅行がありません。ですので、観光業は、アウトバウンドもしくはインバウンドに大きく依っているため、打撃は計りしれないものがありました。ここからは次回の掲載に譲りますが、次回コロナウィルスがシンガポールの経済、特に旅行業界に与えた影響、そして旅行業界はどのようにそれを克服しようとしているかを掲載したいと思います。