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もう1つの年頭所感-平成最後の田川氏新春インタビュー(前)

JATA年頭所感にないテーマを中心に
前編は30年を表す1文字、自身の業界入りの理由など

-昨年はLINEやDMM.comなど、大きな影響力を持つIT関連企業が続々と旅行業に参入しましたが、この状況をどのように見ていますか

田川氏田川 他業界から参入してきた会社については、まずは「お手並み拝見」といったところだが、動向はしっかりと見ていく必要がある。彼らが既存のリアルエージェントが持っていないものを持っていることは確かだが、今後のデジタル化の進展には見通せない部分も多い。また、デジタル化の中で「リアル化」が同時に進む可能性もある。

 例えばどれだけロボットが進化したとしても、歌舞伎座での客席への案内をロボットに任せる時代が来るだろうか。そう考えると、やはり生身の人間に案内してほしいと考える人が多いのでは、と思う。工場での労働などとは違い、サービスの質に関わる部分については、機能性や効率の面だけでは判断できない部分がある。銀行の店頭業務をATMに置き換えるのと、旅行会社の店舗業務を機械化するのとでは事情が異なる。

 また、法人のMICEや修学旅行、DMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)としての仕事などがデジタル化できるかというと、やはり難しいだろう。現在の旅行業の一部をIT企業が担うようになることはあると思うが、すべてが置き換わることはない。

 一方で技術の進歩に期待している部分もある。個人的には、自ら旅行することが難しい人などが疑似体験または過去の旅行を回顧するための言わば「eトラベル」の分野は、単なる旅行需要喚起のための手段に終わらず、それ自体が新たな市場を作る可能性があると考えている。

-近年は出国者数が回復傾向にあり、昨年については2012年の1849万人を超えて記録更新が確実視されていますが、その背景と今後についての見解をお聞かせ下さい

田川 増加の背景には日本人の海外旅行に対する感覚の変化があると見ている。一言で言えば海外へ行きたいという思いを「根強く」持つ人たちが増えてきたと思う。これまではどこかでテロ事件などが発生するとすぐに需要が落ち込んだが、最近はその影響の度合いが小さくなっている。例えば政治的関係がギクシャクしている韓国でも、旅行需要は落ちずに10月、11月と日本人旅行者数は伸びている。つまり「多少のことがあろうと行きたい所には行く」という日本人が増えているのだと思う。

 個人的には「海外旅行に行きたい」と能動的に考える日本人が2000万人はいて、そのなかには1年に複数回旅行する人もいるので、出国者数は年間で延べ2500万人ぐらいまでは伸びると思う。かつては「お隣さんが行ったからウチも」という、受動的な理由による海外旅行は少なくなかったと思うが、今はもう「行きたいから行く」という能動的な人が多くなっているはずだ。

 また、訪日外国人旅行者の増加も海外旅行を後押ししていると感じる。「日本を見直そう」という動きとともに、「そのためには海外を知らなくては」という考えが広がっているのではないか。大学で講義をしていると、学生たちの質問に変化が現れているのが見て取れる。4、5年前までは単に「訪日旅行者数を増やすにはどうすれば良いか」など内向きの質問が多かったが、最近では「訪日旅行者が増えているのは世界全体が国際化しているからで、日本も国際化するにはどうすれば良いか」といった外向きの質問が増えている。

 「全世界の海外旅行者数が13億人を超えたのに、どうして訪日旅行者はまだ3000万人しかいないのですか」といった質問も聞くようになった。訪日旅行の拡大が若者に与えている影響は大きい。昔と比べて海外旅行への関心が薄いとされる若年層は、少子化に伴いその絶対数こそ低下しているが、実は出国率は減っていない。問題は、増加する海外旅行取扱額の伸び率に、リアルエージェントの伸び率が及んでいないことで、その差はOTAに持って行かれている。

※後編は近日中に掲載します