キーパーソン:JATA理事・事務局長の越智良典氏(後)

安心・安全の確保に向け日々の努力を
旅行会社が損をしないためには

 日本旅行業協会(JATA)理事・事務局長の越智良典氏はこのほど本誌の取材に応じ、ここ数年業界を悩ませている海外でのテロ事件などに対し、旅行会社が取るべき対策について語った。越智氏は近畿日本ツーリスト(KNT)の海外旅行部長などを務めるなかでリスク対策に関するノウハウを蓄積し、現在は業界を代表するスペシャリストとして、外務省との調整役や各種セミナーの講師などを務めている。旅行会社がいかにして旅行者の安心と安全を確保し、確実なツアーの催行につなげていくべきかについて聞いたインタビューの後半を紹介する。

─近年のテロ事件の傾向についてはどう見ていますか

越智 ひと昔前は欧米の大使館や国際機関などが攻撃されていたが、近年では欧米人の集まるショッピングモールなど、警備の薄い「ソフトターゲット」がねらわれるようになった。しかも、ここ数年注目を集めているISILなどのイスラム教過激派組織は、一般的な常識や対話が通用しない。ウェブサイトでは「トラックで突っ込む場合は、ほどほどの人混みをねらう」「ナイフで人間を襲う場合は、この部分とこの部分を刺す」といったマニュアルなどを公開していて、手口は年々巧妙になり、未然に防ぐことが難しくなっている。

 テロは「貧者の戦争」とでも言うべきもので、テロリストは最大のインパクトを求めて、相手の予想を超える意外なタイミングや場所をねらってくる。例えば15年3月にチュニジアで日本人を含む旅行者が銃撃された事件などは、まったく予想していなかった。事件の後になって、チュニジアでもISILの帰還兵が増加していたことを知ったが、意識を新たにしなくてはいけないと思った。

 また、15年1月に日本人2人がシリアで殺害され、安倍首相もISIL対策への資金提供を発表した頃から、イスラム教原理主義者にとっては敵でも味方でもないと思われていた日本人が睨まれ始めたのは事実だ。難しい時代になってきたと思う。

─海外旅行を取り扱う会社にはどんな対抗手段があるのでしょうか

越智 旅行会社はテロリストと戦えるわけでないし、100%の安全を確保することも不可能だが、確かな情報で武装して予めリスクを回避し「ここまで危険性を下げたのだから、安心して旅を楽しんでください」と言えるくらいのことはできる。海外旅行を楽しみたいお客様にはその努力を評価していただき、納得していただくしかない。

 昨年末にベルリンのクリスマス市にトラックが突っ込んだ翌日、外務省がスポット情報を発出したことで、一部の旅行会社は予定していたツアーを中止した。外務省の情報に沿った対応としては正しいかもしれないし、会社の規模や、親会社の意向、過去の事故歴などを総合的に判断して、慎重な対応を取らなくてはいけない場合もある。しかしヨーロッパに特化した旅行会社などは、日頃からもう少しリスク対策を強化しておけば、ツアーをキャンセルしない方法もあるのでは、とも思う。