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トップインタビュー:海外邦人安全協会会長の小野正昭氏

日本人の海外旅行に意識変革を
旅行会社ができる最大のサービスとは

-積極的な情報提供に取り組むことで、人々が旅行から遠ざかる可能性もあるのでは

小野 旅行会社は「収益と逆行する取り組みで、コストもかかる」と考えるかもしれない。しかし、すでに一部の人々は旅行から遠ざかってしまっている。それでも海外を旅したいと考える人には、期待に応える商品を提供し、あわせて安全確保のための情報もしっかりと提供して、安心して旅を楽しんでいただくのが良いと思う。

 私は安全確保に向けた旅行者への情報提供こそが、旅行会社ができる最大のサービスだと思う。特に観光客については、出張者や駐在員のように組織が教育を授けられる機会がない。そしてターゲットになりそうな場所やイベントを極力避ける、比較的安全な地域のなかで行動するなど、安全の確保に努めさえすれば、ツアーを組める国はまだまだ増えるはずだ。

 旅行者にはまず、外務省の海外安全ホームページや「たびレジ」を周知することが大切だと思う。DeNAトラベルなどの旅行会社が「たびレジ」とのシステム連携を開始したことは非常に良い取り組みだ。スマートフォンなどが浸透しているこの時代なら、関係各者の協力と個々の旅行者の意識によって、かなりの水準の安全が確保できる。

-情報提供以外で旅行会社が取り組めることは

小野 近年は旅行業界も意識を高めている。JATAが外務省の「海外安全官民協力会議」などに参加していること、7月1日を「旅の安全の日」として模擬訓練などを推進していることなどは、とても良い取り組みだと思う。

 すでに各種の取り組みを進めている会社も多いが、継続することが大切だ。また、外務省が危険情報を発出しているような国については、ツアーに同行する添乗員や、現地の支店・提携企業などの危機管理能力も向上させる必要がある。例えば、ダッカの事件ではレストランが襲われたが、今後は「どのような席に座るべきか」「非常口がどこにあるか」といったことまで、可能な限り考える必要があるのかもしれない。

 大手企業と違い、中小企業は社内に専門家などを置くことは難しいが、いずれにせよ旅行会社には旅行者の安全を管理する責任がある。事件や事故に備えてどのような体制を構築しておくべきか、実際に何かが起きたらどう対応すべきか、各社がそれぞれに知恵を絞っておく必要がある。

 旅行会社が先頭に立ってリスク対策に努めていれば、旅行者は「ここまで頑張ってくれるのなら任せられる」と安心できるのではないだろうか。また、旅行者が不可抗力による事故などに遭ったとしても、その際に旅行会社が誠意のある対応に努めれば、その後の評価につながる。昨年の軽井沢でのスキーバス転落事故の際のような対応ではいけない。旅行会社に限らずどんな仕事でも、リスク対策だけは念頭に置いた方がいい。

-今後は日本国内でも、テロ事件や輸入感染症の脅威が増すと考えられます。旅行業界にできることはありますか

小野 今後も訪日外国人旅行者は増え続けるし、さらに20年には東京オリンピック・パラリンピックも控えているので、どちらも対策を進めなくてはいけない。一方で、日本人は風評に影響されやすく、過剰反応する傾向が強いので、パニックを防ぐためにも情報提供による啓発活動が必要だと思う。先の読めない時代だからこそ、すべての関係者が連携を強化して、問題を未然に防ぐ必要がある。

-ありがとうございました