トップインタビュー:海外邦人安全協会会長の小野正昭氏

日本人の海外旅行に意識変革を
旅行会社ができる最大のサービスとは

-近年の海外旅行を取り巻く危険についての見解は

小野 4、5年くらい前までは「旅行者がテロに巻き込まれる」時代だったが、今日では「旅行者もねらわれる」時代になった。そのことを旅行会社も旅行者も早く認識し、意識を変革する必要がある。また、近年は航空業の発展により世界が小さくなったことで、テロだけではなくエボラ出血熱やジカ熱など、感染症の脅威も増している。

 16年には、日本では注目されなかったものも含めると、かなりのテロ事件が発生した。多くはイスラム教過激派組織のISILやその影響下にある者による事件だが、彼らがシリアやイラクで劣勢になればなるほど、発生地域が拡大している。大きく報道されることはなかったが、8月にはデンマークのコペンハーゲンでISILによるものと見られる警察官襲撃、カナダのトロントでタクシーをねらった爆弾テロがあった。

 近年はレストランやマーケットなど警備の手薄なソフトターゲットが、ローンウルフ型のテロリストにねらわれるケースが多い。武器も多様化していて、トラックやガスボンベなど身近なものが使われている。テロリストにとっては自由度が高く、治安当局の監視が行き届きにくい時代になった。

 個人的に最も残念だったのは、7月にバングラデシュのダッカで日本人の人質7人が殺害された事件だ。親日国とされてきた国で日本人がねらわれたショックは大きい。前年にも日本人が1人殺害され、ISILが犯行声明を出した事件があったが、その際にもっと注意喚起を強化しておくべきだったのではと反省している。

旅行会社や旅行者は、意識をどう変革するべきでしょうか

小野 旅行会社は魅力的な旅行商品を企画して販売し、旅行者のニーズに応えることが仕事だ。しかし現在の海外旅行においては、治安の面でかなり厳しい現実が目の前にある。旅行会社はそのことを認識し、事前にさまざまな治安関連情報を収集してリスクを最小化する必要がある。また、旅行者に対しては積極的に安全確保に向けた情報を提供し、「自分の身は自分で守る」という意識を持ってもらい、その上で大いに旅を楽しんでもらうべきだ。そう考えた方が、結果的には良い方向に向かうと思う。

 旅行者はあえて危険な国を訪れる必要はない。しかし個人的には、全く何のリスクのない環境で得られるものは少ないと思う。特に若い人たちには、平和な島国の日本に安住することなく、リスクを最小化した上で未知の世界を感じてもらいたいと考えている。