取材ノート:これからの観光産業、必要な資質と素養−TIJ産学連携セミナー
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ツーリズム産業の新機軸は
地域との密接な関係に基づく地域交流
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NHは、「おもてなしの心」を今一度見直し、世界に発信することでアジアナンバーワンの機内品質をめざしている。また、河本氏は「現在の航空業界の環境は変化している」と話し、「ANAグループとしては、この変化をチャンスに変えていきたい」と意気込みを語った。
「ツーリズム産業のなかで重要なインフラを担っていると自負する」と話すJR東日本の原口氏は、鉄道事業において「インフラを整備するということは地域との共生が欠かせない」として、2010年12月の新青森駅の開業を例に挙げた。JR東日本では新青森駅開業に続き、2011年3月には新型車両の「はやぶさ」、国内新幹線初のファーストクラスとなる「グランクラス」を導入する。インフラを整備するとともに、青森県の観光素材を周知し、送客につなげて青森県のツーリズムの発展、地域活性化につなげるべく、JRグループ全社が共同で4月23日から全国的に青森のデスティネーション・キャンペーンを展開する。
人材を送り出す大学側として、立教大学の橋本氏は「観光を学ぶ学生の数は20年間で約20倍になり、現在、観光関係の学部は43学部、学生は約5000人に拡大した。さらに、観光コース、観光科目を設置している大学も含めると、その数は80を超える」と説明。「観光業が多様なように各大学の学部も多様。企業側のニーズと大学側の育成のベクトルをいかに一致させていくかに努めている」と現状を話した。
既存のマーケットに頼らず「需要」を創出する
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JR東日本の原口氏は、ツーリズム産業に限らず日本が今後絶対に直面する壁として、「人口の減少」に言及した。JR東日本の収益は、大きく「定期」「首都圏の近距離輸送」「特急列車利用を含める遠距離輸送とツーリズム」に3分できるが、そのなかで、旅行業界が主体的に需要をつくり出せるのは、出張などのビジネス利用の遠距離輸送を除いたツーリズム事業だけだという。そのため、近い将来では2012年度末に東京/上野間を結ぶ東北縦貫線を開通するほか、2014年度末に金沢まで、2015年度末に函館まで新幹線を延伸するなど、インフラのさらなる整備を計画。「旅行会社がそれを活用することで、ツーリズム産業の未来を創出し、観光業の成長に寄与できる」とした。
また、NHの河本氏は航空会社として「人口が減少し、JRがネットワークを広げるなか、現在のパイを奪い合うのではなくどう拡大するかが課題」だという。具体的には、羽田、成田を活用してアジアからの旅行者を取り込み、日本国内のインフラを利用する旅行を創出する。
ツーリズム産業が求めるのは
主体性があり発信力のある人材
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JR東日本の原口氏は、ツーリズム産業を志望する学生にとって大切な資質として、「人を喜ばせることが好き」な点をあげた。また、鉄道会社はとかく理系の技術や知識が必要だと思われるが、それだけでなく、観光事業で旅行者の需要を創り出すために、「違う文化や考え方を持つ人に飛び込める力が大切だ」と話した。
「稲刈人から開墾人になれ」とユニークな表現をしたのは、JTBの田川氏。「旅行会社を志望するには、旅が好きなだけでなく、人を動かすことが好きであることが大切だ」と話した。与えられたことをやるだけでなく、新しく需要を掘り起こすために、主体的に動く人材がこれからは必要だと話した。
立教大学の橋本氏は、人材の送り手側として「観光産業は人がすべて」といい、各社が求めるグローバルな人材を育てるため、産学連携でアジアからの留学生を育成するコンソーシアム事業を進めていることを紹介。ただし、「大学教育は企業が求める人材を育てるだけではなく、自らの問題意識に沿って主体的にカリキュラムを組み立て、考え方のフレームを理論的に学ぶことで、応用力を身につけることが大切」と話した。
最後に、JR東日本の原口氏はツーリズム産業について、「リアルな体験である観光をどう魅力的に見せるのか、難しいがやりがいのある仕事」と位置づけ、NHの河本氏は「いいものを見て、感じて、気づきの感性を養ってください」と学生にメッセージを送った。また、JTBの田川氏は「楽しいことを考える癖をつけて、ぜひツーリズム産業に来てください」と呼びかけた。
取材:江藤詩文