取材ノート:リピーター主導の海外旅行に変化の兆し、2つの有望市場が浮上
日本旅行業協会(JATA)が先ごろ開催したJATA経営フォーラムのスタディセッションでは「旅行市場予測〜どうなる2010年〜」と題し、財団法人日本交通公社(JTBF)観光マーケティング部主任研究員の黒須宏志氏が講演。「景気の回復は見込めない」としながらも「2009年まで下がり続けた消費者の旅行意欲は2010年に回復しつつある」と述べ、2010年の有望市場として「西日本の20代女性」と「低頻度層」をあげ、回復に向けた3つのキーワードを提示した。
選択的投資により海外旅行市場は「濃い」市場を形成
黒須氏は中長期的なトレンドを踏まえ、現在の旅行市場を「選択的投資型余暇の時代」とした。これはレジャー白書2008のタイトルで、1997年と2007年のレジャー動向を比較すると、参加する余暇活動の種目数は減少しているが、余暇活動に費やす消費額の総額は減少していない。黒須氏はこれを「余暇活動を絞り込み、選択的投資をしている」と分析する。
1996年と2006年を比較すると、参加人口、活動頻度ともに上昇しているのは、ゲームや映画、ビデオ鑑賞など「家の中市場」や、サイクリング、器具を使ったトレーニングといった「小間切れ時間を使った遊び」だ。一方、参加人口は減少しているが、活動頻度が上昇しているものにテニスやゴルフ、そして海外旅行がある。
黒須氏は「ここに属する旅行者の6割は過去10回以上の海外旅行経験がある高経験者」として、「行く人は行く、行かない人はまったく行かないというように市場が二極化した結果、旅行に行く層はその仲間同士が誘いあうことで経験値がさらに高まり、一人あたりの消費額が増え、市場が成熟した」と分析。「濃い市場が形成されている」と表現した。
その背景には雇用者所得が伸び悩み、消費金額と時間に限りがあるため「個の時間を重視して、小間切れの時間で遊ぶ」「“下流”な人たちによる家の中市場が形成された」ほか、「仲間や家族との連帯感を求める」「市場が狭まり、遊び能力が向上した人たちが現れた」ことがあるという。
経済に勝った市場、20代女性に新たな動向
2010年の海外旅行市場で注目する客層として、黒須氏は「西日本の20代女性」をあげた。性年代別出国率動向を2008年12月から2009年11月まで見ると、20代前半と20代後半の女性がともに約2%増と、全世代のなかで最も伸びている。また、若年層の失業率と出国率を比べてみると、失業率が上がっていても出国率も伸びている。
黒須氏は、若年層の出国率増加の背景には円高ウォン安による韓国人気があるとしながらも「これだけ経済が厳しいのに出国率がプラスに転じ、20代女性が伸びているのは過去15年くらい見られなかった現象」といい「旅行が経済に勝った」と力説した。
さらに地域別にまで分類すると、地域×性年代別旅行者数の動向では、東日本や首都圏に比べて西日本では全世代で女性の伸び率が高い。また、男性は全地域・全世代で減少しているが西日本では減少幅が小さいという。さらに、成田空港の国内線利用旅客数について「8月以降、関空/成田線が伸びている。西日本の消費者が関空からは飛んでいない方面のデスティネーションへ動いたのではないか」とも話す。
低頻度層に埋もれる高経験者層、復活層
2009年は海外旅行者数が前年比3.4%減と減少したにもかかわらず、パスポート発給数は5.6%増加。これを黒須氏は「過去に起こったことがない現象」と指摘した。過去1年間のパスポート取得者のプロフィールを見ると、45%が海外旅行経験1回から5回の低経験者。つまり低経験者が海外旅行市場に流れ込んでいると見る。海外旅行市場の1割が毎年海外旅行をする高経験層、4割が未経験層であり、過去5年以内に海外旅行をした1割と5年以上海外旅行から遠ざかっている4割をあわせた5割を「低頻度層」として、注目すべき層だと提言した。
低頻度層に対する戦略として「低頻度層に埋もれた過去10回以上の高経験者層」のほか「旅行から遠ざかっていたが、2009年に出かけて旅行意欲が高まっている復活層」を有望市場と位置づけた。さらに「5年以上海外旅行をしていない20代に動きが見られ」「低頻度層はロングホールへの志向が強い」とした。「2010年は海外旅行市場に回復の兆しが見えてきた」といい「低頻度旅行者層の需要開発」「西日本市場、ローカル需要の開拓」「ロングホールに商機」と提言した。
なお、北東アジア方面のエコノミークラス供給量が2%増加するという予測と、韓国と上海万博が開催される中国がリードし、北東アジア方面が下期にかけてさらに伸びるという方面別予測を示し、「2010年はショートホール元年になるか」との可能性も示した。
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選択的投資により海外旅行市場は「濃い」市場を形成
黒須氏は中長期的なトレンドを踏まえ、現在の旅行市場を「選択的投資型余暇の時代」とした。これはレジャー白書2008のタイトルで、1997年と2007年のレジャー動向を比較すると、参加する余暇活動の種目数は減少しているが、余暇活動に費やす消費額の総額は減少していない。黒須氏はこれを「余暇活動を絞り込み、選択的投資をしている」と分析する。
1996年と2006年を比較すると、参加人口、活動頻度ともに上昇しているのは、ゲームや映画、ビデオ鑑賞など「家の中市場」や、サイクリング、器具を使ったトレーニングといった「小間切れ時間を使った遊び」だ。一方、参加人口は減少しているが、活動頻度が上昇しているものにテニスやゴルフ、そして海外旅行がある。
黒須氏は「ここに属する旅行者の6割は過去10回以上の海外旅行経験がある高経験者」として、「行く人は行く、行かない人はまったく行かないというように市場が二極化した結果、旅行に行く層はその仲間同士が誘いあうことで経験値がさらに高まり、一人あたりの消費額が増え、市場が成熟した」と分析。「濃い市場が形成されている」と表現した。
その背景には雇用者所得が伸び悩み、消費金額と時間に限りがあるため「個の時間を重視して、小間切れの時間で遊ぶ」「“下流”な人たちによる家の中市場が形成された」ほか、「仲間や家族との連帯感を求める」「市場が狭まり、遊び能力が向上した人たちが現れた」ことがあるという。
経済に勝った市場、20代女性に新たな動向
2010年の海外旅行市場で注目する客層として、黒須氏は「西日本の20代女性」をあげた。性年代別出国率動向を2008年12月から2009年11月まで見ると、20代前半と20代後半の女性がともに約2%増と、全世代のなかで最も伸びている。また、若年層の失業率と出国率を比べてみると、失業率が上がっていても出国率も伸びている。
黒須氏は、若年層の出国率増加の背景には円高ウォン安による韓国人気があるとしながらも「これだけ経済が厳しいのに出国率がプラスに転じ、20代女性が伸びているのは過去15年くらい見られなかった現象」といい「旅行が経済に勝った」と力説した。
さらに地域別にまで分類すると、地域×性年代別旅行者数の動向では、東日本や首都圏に比べて西日本では全世代で女性の伸び率が高い。また、男性は全地域・全世代で減少しているが西日本では減少幅が小さいという。さらに、成田空港の国内線利用旅客数について「8月以降、関空/成田線が伸びている。西日本の消費者が関空からは飛んでいない方面のデスティネーションへ動いたのではないか」とも話す。
低頻度層に埋もれる高経験者層、復活層
2009年は海外旅行者数が前年比3.4%減と減少したにもかかわらず、パスポート発給数は5.6%増加。これを黒須氏は「過去に起こったことがない現象」と指摘した。過去1年間のパスポート取得者のプロフィールを見ると、45%が海外旅行経験1回から5回の低経験者。つまり低経験者が海外旅行市場に流れ込んでいると見る。海外旅行市場の1割が毎年海外旅行をする高経験層、4割が未経験層であり、過去5年以内に海外旅行をした1割と5年以上海外旅行から遠ざかっている4割をあわせた5割を「低頻度層」として、注目すべき層だと提言した。
低頻度層に対する戦略として「低頻度層に埋もれた過去10回以上の高経験者層」のほか「旅行から遠ざかっていたが、2009年に出かけて旅行意欲が高まっている復活層」を有望市場と位置づけた。さらに「5年以上海外旅行をしていない20代に動きが見られ」「低頻度層はロングホールへの志向が強い」とした。「2010年は海外旅行市場に回復の兆しが見えてきた」といい「低頻度旅行者層の需要開発」「西日本市場、ローカル需要の開拓」「ロングホールに商機」と提言した。
なお、北東アジア方面のエコノミークラス供給量が2%増加するという予測と、韓国と上海万博が開催される中国がリードし、北東アジア方面が下期にかけてさらに伸びるという方面別予測を示し、「2010年はショートホール元年になるか」との可能性も示した。
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取材:江藤詩文