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現地レポート:ドバイ、送客のチャンス

  • 2010年2月2日
通常通りの観光可能、大型グループの送客チャンスも
MICE開催地に求められる要素を備えたデスティネーション


 類を見ない成長スピードで注目をあびたドバイは、一昨年のリーマンショック後の世界的な景気後退のあおりを受けた場所として、強調した報道がされた。バブルが崩壊し、工事がストップした高層ビルが廃虚化したといったニュースだ。しかし、ドバイ政府観光・商務局によると、政府プロジェクトで着工済みのものは継続しているという。それまでが異常で普通のペースになった、という見方もある。今のドバイはどのような様子だろうか。近畿日本ツーリスト(KNT)のイベント・コンベンション・コングレス事業本部カンパニー(ECC事業本部カンパニー)が2009年11月に実施した研修旅行に同行し、現地を視察した。おりしも、昨年秋のドバイ・ショックの報道がされた渦中での訪問となった。     
     
     


観光に支障なし、大型ホテルも続々オープン予定

 研修旅行はKNTのECC事業本部カンパニー主催であるだけに、MICE商品の造成と新規顧客開拓を主眼にしたもので、2009年11月27日から12月2日にかけて実施された。この時期はイスラム暦の祝日である犠牲祭にあたり、街中の工事現場には人影がなかった。しかし現地オペレーターによると、通常は24時間態勢で建築作業を進行しているそうだ。研修旅行中、廃虚化した建物を見かけることはなかった。「廃虚になった建物に人が住み着き、治安の悪化を心配していたが、杞憂だった」と参加者。もちろん、混雑したスーク(市場)などではスリやひったくりに注意が必要であるが、「街は清潔で緑が多く、交通ルールが守られ車での移動も安心」「街を散策していても不安を感じることがない」と治安の良さを肌で感じたようだ。


 ホテルはシティ側にはビジネスセンターや会議室など、ビジネス需要に対応した設備を備えるホテルがそろい、ビーチ側にはレジャーや大グループに適するような大人数を収容するコンベンションルームやレストラン、ショッピングセンターを有するホテルが並ぶ。全体の客室稼働率は73%と低下しているが、現地オペレーターによると、「ホテルの客室数が急激に増えたため」。さらに現在の総客室数約6万室から、2010年以降には約12万室へ倍増する計画だという。2010年もアルマーニ、コンラッド、ヴェルサーチ、モーベンピック・ジュメイラビーチと大型ホテルが続々オープンする予定だ。



砂漠ステイで滞在を延ばす商品造成、旅程提案の可能性も

 ドバイはホテル内や市街の観光エリアを出てしまうと観光素材が少なく、旅程のアレンジが難しいと見る向きもある。市内の観光素材は、ドバイで最も美しいといわれるジュメイラ・モスク、昔の建築物が今も残るバスタキヤ地区、ドバイクリーク(入り江)をアブラ(アラブスタイルの水上タクシー)で渡って行くゴールド・スークとスパイス・スークなどで、研修旅行では駆け足で回ったこともあり、ほぼ半日で回り終えてしまった。


 従来のドバイ旅行の目的もリゾート滞在とショッピングが多い。モノステイのツアーは現地4泊の6日パターンが主流で、それより期間の長い周遊型はエジプトやトルコ、ギリシャなどとの組みあわせになる。ドバイでの滞在を1日でものばすための素材として注目したいのが砂漠だ。例えばジュメイラ・グループのリゾートホテル「ジュメイラ・バブ・アル・シャムズ・デザート・リゾート&スパ」。砂漠の立地だが市内から車で約45分で到着し、砂漠のなかのドライブも揺れはほとんどない。車窓から広大な砂漠を眺めながらドライブを楽しむのにちょうどいい距離だ。また、砂漠といえども水をたっぷり使うことができて、バス、トイレも清潔。


 砂漠に滞在できない場合は、半日のデザートサファリ・ツアーもある。4WDに乗り込み、市内から小1時間のドライブ後、砂漠のアップダウンを体感しながらキャンプサイトに到着。サイトではラクダに乗ったり、砂丘をボードで滑ったり、ヘナ・ペインティングといったアクティビティを楽しめる。その後バーベキューを中心としたブッフェの夕食が供され、ベリーダンスを鑑賞。アミューズメント要素が無駄なく詰め込まれ、不便を感じることなく砂漠を体験できる。見た目にインパクトのある素材を含めることで、ドバイの旅程アレンジの幅が広がりそうだ。
 




ドバイならではの経済特区、医療・健康分野に今後の可能性

 研修旅行では、ドバイ政府が設立した経済特区(フリーゾーン)も視察した。ドバイを含むアラブ首長国連邦(UAE)で会社を設立するには、原則51%以上の現地資本の参加が必要だが、外資100%で設立可能とした場所だ。その他にも法人税・所得税50年間免除、ローカル・スポンサーが不要などさまざまなインセンティブを設け、外国企業の誘致を強めている。インターネット・シティやメディア・シティなど産業別に分かれたフリーゾーンがあり、なかでも今後の発展に注目されているのがヘルスケア・シティだ。


 ドバイは急激に人口が増えたため、医療機関が十分に足りていない。また、経済的にも急速に豊かになって食生活が変わったうえ、厳しい暑さから運動習慣がないため、生活習慣病患者やその予備軍が増えている。全人口の約3割が糖尿病患者またはその予備軍といわれているそうで、ヘルスケア・シティでは世界各国から高度最新医療を集めた中東の最新医療センターをめざしている。一般診療や入院ができる医療機関のほか、医療教育施設、栄養センターやリゾート&スパといった健康増進施設、インターネットを利用した遠隔医療サービスといった健康サポートまで網羅する予定だという。


 工事は二期に分け、敷地面積約38万平方メートルの第一期エリアはほぼ完成。第二期では第一期の4倍近い敷地を予定している。日本企業で進出を決めたところはまだないが、すでに海外企業が入居をはじめており、今後、ヘルスケア・シティをはじめとするフリーゾーンへの視察旅行の可能性もありそうだ。また、海外の先進企業や施設が集中することで、各分野での学会、国際会議の開催やそれにともなう研修旅行、報酬旅行などの需要も考えられるだろう。
 

 
提案次第で送客チャンスに

 日程を終えて、ある参加者は「ドバイは報奨旅行のためにあるようなデスティネーション」と、感想を話す。市内のホテルも砂漠のホテルもMICEの誘致に力を入れていて、大型のコンベンション施設やボールルームを備え、ホワイエも含めてアレンジしたり、サプライズの演出といったカスタマイズにも対応している。食事は衛生的で、アラビア料理をはじめフレンチ、イタリアンからアジアン、中国料理、日本料理まで世界中の料理が揃う。大型ツアーを収容できるブッフェレストランが多く、イスラム国家だがアルコールには寛容で、旅行者向けのレストランなら、ほぼどのレストランでも昼間からアルコールを提供している。


 ドバイはロング・デスティネーションで旅程の日数がかかるが、「“遠くて高い旅行先”というイメージを逆手に取ったアプローチもできる」と参加者。「物価が高く、メトロができたとはいえ、効率的に移動するには車が必要。ドバイは日本で知名度を上げており、遠くて高いから自分のお金で行けないけれど、ご褒美で来て異国情緒を味わい、贅沢な思いができるデスティネーションとしての魅力にあふれている」。高い価格も提案によっては報償旅行のセールスポイントになりうるそうだ。


 参加者のなかから「今はむしろ好機」という意見も出た。客室稼働率が下がったことで、高騰していた室料が落ち着いてきたのだ。これまで、MICEをはじめとする大型ツアーを組みたくても送客できなかったが、これからはまとまった数の手配がしやすくなる。3月からエミレーツ航空(EK)が成田線を就航し、ドバイへの航空座席数が増える。今後は、インセンティブツアーを中心とするMICEやグループ需要の取り込みが、ドバイ送客のカギとなるだろう。





取材協力:近畿日本ツーリスト(KNT)、エミレーツ航空(EK)、ジュメイラ・グループ、
ドバイ政府観光・商務局、オリエント・ツアーズ
取材:江藤詩文