取材ノート:旅行業界と地域が協力し、地域全体の発展のサポートを

  • 2009年3月24日
旅行業界と地域が協力し、地域全体の発展のサポートを
〜ツーリズムのニュートレンド 地域への期待、地域は何をすべきか〜


 経済産業省が開催した「観光・集客サービス産業創造フォーラム2009〜体験観光サービス見本市〜」は、経産省が支援する全国17地域のコンソーシアムが開発した地域発信型商品を旅行会社やウェブエージェントに紹介し、ビジネスにつなげる場を提供するもの。ただし、体験観光サービスを提供する多くの事業体が経営的に停滞しているという課題がある。このようななか、ウェブサイトでサービスを受け付けるといった、地域と消費者を直接結びつける新しいサービスが注目されている。オンライン旅行会社やウェブエージェントを登壇者に招いたパネルディスカッションでは、着地型観光事業のビジネス化に向けて地域がどのように情報を発信して旅行者を取り込んでいくべきかが話された。地域と消費者のBtoCがメインのトピックとなったが、旅行会社の手腕が発揮できる余地もありそうだ。


登壇者
 コーディネーター:東京大学大学院農学生命科学研究科教授 下村彰男氏
 パネリスト:JTBパブリッシング執行役員 秋田守氏
       アイーダ代表取締役社長兼最高経営責任者 岩崎徹氏
       楽天トラベル取締役副社長 中村晃一氏
       モバたび取締役 野添幸太氏
       ティー・ゲート エリア商品開発部長、
       近畿日本ツーリスト(KNT)旅行事創発本部(地域振興)部長 福井善朗氏


ユーザーが自由に組み立てる余地のある商品開発を

 着地型商品のビジネス化にあたり、キーワードとして上がったのは「ユーザーの手に委ねる余地のある商品づくり」だ。地域活性化プロジェクトサイト「旅頃 ニッポンをつなぐ旅」で、各県観光課とタイアップ企画を展開する楽天トラベルの中村氏は、JRや高速バス、航空券、レンタカーと旅行情報、宿泊をユーザーが自由に組みあわせを可能とするダイナミックパッケージ化を進めている。「販売側が造成したお仕着せの商品よりも、ユーザーの手で作り上げる裁量が残る商品のほうが魅力的」と話す。JTBパブリッシングで団塊世代向け定期購読雑誌「ノジュール」を手がける秋田氏も、同誌で実施した三重県輝北町で泊食分離をテーマのモニターツアーについて、記事に対する反応調査で泊食分離を「良い」とする読者が59.1%で、227件の意見が寄せられたことをあげ、実際の数値で消費者の自由な旅への関心の高さを示す。

 また、モバたびで全国の旅行・観光情報を発信する野添氏も「ユーザーが必要としているのは、定番コースとサムシング。観光のモデルコースがあったとしても、それをベースに自分らしいサムシングをつなぎあわせて、自分らしいプランをつくる」と語る。中村氏は「ユーザーが選ぶための指針となるコンセプトは必要だが、ある程度はユーザーに委ねる勇気も必要。ユーザー主導となることで、クチコミやSNSなどのユーザー型リレーションによって、商品は売れる」と言を重ねた。

ターゲットを明確にした情報発信、選ばれる工夫を

 各登壇者とも、地域の資源を高く評価したものの、それを活用した消費者誘致には厳しい指摘が続いた。情報はすべて横並びで、ぎっしり詰め込んだパンフレットを見て「めりはりのある情報を発信しなければ、消費者には届かない」と指摘したのは野添氏。秋田氏は「パンフレットを見ても、いつ誰に何をどう伝えるためのものかがわからない」。中村氏は「今は、消費者がシビアに自分の目で比較、検討して選ぶ手間を惜しまない時代。わざわざそこに行く価値があるのか、という消費者の目線で見直すべきだろう」と提言した。

 ネーミングひとつの工夫がもたらす効果について話したのは、地域観光情報ポータルサイト「チキタビ」を運営するアイーダの岩崎氏。「陶芸体験」というプログラムについて、たとえばインターネットで「陶芸体験」を検索すると、無数のプログラムがヒットするが、『○○窯で焼く』『○○名人に習う』などをつけるだけで、プログラムはオンリーワンとなって広がりを見せるとし、「地域にとって唯一無二の陶芸体験でも、消費者にとっては違う。消費者は比較し、差別化する。選ばれる工夫が必要」と話す。


着地型で地域が主体となり地域全体の活性化へ

 着地型プログラムのビジネス化について「着地型プログラムの商品化ばかり集中しているが、プログラムのみを体験する消費者はいない」と指摘したのは野添氏。市町村統合によってエリアが拡大したため、自治体が持つ本来の観光資源が不明瞭になったというのが野添氏の見解だ。「単に着地型プログラムが売れればいいわけではなく、地域の活性化につながらなければ意味がない」と、着地型観光専門旅行会社ティー・ゲートのエリア商品開発部長であり、近畿日本ツーリスト(KNT)旅行事創発本部(地域振興)部長の福井氏も口を揃える。

 また、秋田氏は交通が不便な場所にある某宿を例にとり「その宿を中心に、他の宿や店など地域全体が連動して助けあい、エリア全体の発展につながった例もある」として、地域を象徴するものの必要性について言及。岩崎氏と福井氏は「都市からの誘客に目が向いているが、地元に根ざした情報発信も必要」と話し、地域の都市部から体験や経験を求めて人の動きがあり、地元マーケットに受け入れられるプログラム作りが必要であることを述べた。

地域に求められる旅行会社のノウハウ

 パネルディスカッションの終了後は、参加していた地域コンソーシアムから、今後の課題について「地域にはノウハウがない」といった声も上がった。誰がどんな情報を求めているのか。パンフレットにめりはりをつけたくとも、何にボリュームを割けば消費者を誘致できるかわからない。また「ウェブエージェントはスペースを提供してくれるだけに過ぎない。コンテンツの作成から情報の発信、更新まですべて自治体がまかなうには手が足りない」といった声もあった。

 一方、旅行会社はパンフレット作成など情報発信のノウハウの蓄積がある。また、カウンター業務を通じて消費者のリアルな動向を把握している。単品のプログラムを組み合わせたパッケージつくりにも長けている。旅行会社が消費者と地域の間に入って地域をサポートすることで、着地型プログラムのビジネスがこれまで以上に広がり、旅行会社にとっても新たなビジネスモデルを作ることが可能となるだろう。


取材:工藤史歩