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注目の世界遺産暫定リスト(4)スィーワオアシス エジプト

  • 2009年2月26日
 照りつける強烈な日差しのなか、生い茂るナツメヤシの木々。その間に延びる乾いた道を、荷車をつけたロバが走っていく。ところどころにエメラルドグリーンの鉱泉がわき、人々が気持ちよさそうに水浴びをしている。そして丘の上のなかば風化した旧市街が、素朴な村を見下ろしている。世界遺産暫定リストに登録されたスィーワオアシスは、私たちがイメージするオアシスそのものの姿が見られる場所だ。

 ピラミッドをはじめとする古代遺跡で有名な観光国エジプト。ナイル沿岸の観光地で見かける大勢の観光客も、ここスィーワまではなかなかやって来ない。カイロから直線距離で約560キロメートル、リビア国境近くのこの場所は空港がなく、バスを乗り継いで13時間もかかるためだ。エジプト5大砂漠のひとつである西方砂漠の真ん中にあり、地中海沿岸の町と舗装道路で結ばれる1980年代までは、テレビも電話もなかったという。しかしスィーワを訪れた外国人は、一様にそのすばらしさを褒めたたえる。

 その理由は、スィーワが賑やかな観光地ではなく、まるで遠い昔にかえったかのような姿の静かな田舎町であるからだろう。この地域に住むのはベルベル系の人々。街なかは日干しレンガを多用した建物が多く、いかにも砂漠のただなかにあるといった雰囲気で、集落を出ると一層のどかな光景が広がる。

 紀元前7世紀、スィーワはその名を広く知られ、多くの人が集まる場所だったといわれる。それは神託で名高いアムン神殿がこの地にあったためだ。紀元前525年、この神殿を手に入れようとしたペルシア王カンビュセス2世が砂漠で全滅した話や、アレクサンドロス大王がここへ神託を受けにやってきたことなどはよく知られている。古代世界に名を馳せたアムン神殿は、今もスィーワの中心地から3キロメートルほど離れた丘の上にたたずんでいる。エジプト末期王朝時代に建てられた日干しレンガの建物は、今はかなり崩れてはいるものの、当時の姿を思い浮かべるには十分だ。上からは白い塩湖「アグルミ湖」の美しい姿が眺められる。

 アムン神殿のほかにも、スィーワには泥レンガでできた旧市街「シャーリー」や、エジプト末期王朝時代からグレコローマン時代にかけての墓「ガバル・イル・マウター」、スィーワ湖にある「ファトナス島」などの見どころが点在し、レンタサイクルを借りれば1日で見て回れる。ほかに近郊の砂漠や遺跡、温泉を訪れるツアーもあるので、参加したければ2日は滞在したい。しかし、スィーワに慌ただしい旅は似あわない。できれば、ここで流れているゆっくりとした時にあわせて、のんびり過ごしてみたいと思わせる町だ。

 砂漠に暮らす人々にとって命のように大事な水。スィーワ湖とアグルミ湖にはさまれ、豊富な地下水に恵まれたこのオアシスの町は、旅人にとっての心のオアシスでもある。ここを訪れると、華々しい歴史や壮麗な古代建築物のイメージとは異なる、エジプトの別の一面を発見することだろう。

 ちなみに、日本からエジプトを訪れるツアーは、カイロやルクソールやアブシンベル、アスワンなどを巡るものが多く、スィーワを訪れるものは稀だ。ただし、道祖神や西遊旅行などの辺境を得意とする旅行会社では、スィーワオアシスの観光を含むツアーを設定することがあり、スィーワから公共交通機関のないルートを通って、白砂漠と黒砂漠で有名なバフレイヤ・オアシスへ向かう。エジプトの古代遺跡のみならず、砂漠の世界も堪能できるコースとなっている。


▽エジプト大使館 エジプト学・観光局
http://www.egypt.or.jp/


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