現地レポート:オーストラリア 世界遺産にゴールするシドニーマラソン

  • 2008年10月27日
世界遺産にゴールするシドニーマラソン
注目高まるマラソンツアーの新たな素材


日本人が参加する海外市民マラソンといえばホノルルマラソン。2007年は約1万7000名の日本人が参加したほどの人気だ。しかし、昨今のマラソンブームも手伝って、その他の海外マラソンも注目されており、オーストラリアのゴールドコーストマラソンはテレビ番組が組まれた。同じオーストラリアには2000年のオリンピック後からはじまったシドニーマラソンがあり、9月21日に開催された第8回大会には日本から171名が参加し、年々、数が増えているという。注目されつつあるシドニーマラソンの特徴と旅行商品としての魅力を取材した。(取材協力:ニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局、カンタス航空、取材:戸谷美津子)


楽しむ要素の多いシティ・マラソン

 シドニーマラソンの参加者数は、2001年の第1回大会は7800人であったが、今年は前年比20.4%増の約2万5300人。うち960人は海外からの参加者である。シドニーマラソン日本事務局である「ピットトラベル」によると、豪国在住者を含めた日本人参加者の概数は2003年120名であったが06年には480名、今年は豪在住者395名を含めると合計566名にのぼり、外国人の参加者としてはニュージーランド人に次いで2番目となる。

 日本からの参加ツアーが作られるマラソン大会は、ホノルルマラソン、ゴールドコーストマラソンなどで、いわゆるリゾート・マラソンが多い。一方、シドニーマラソンを含むシティ・マラソンは競技者向きのイメージが強く、商品化されることは少ない。しかし、シドニーマラソンはフルマラソン、ハーフマラソン、9キロのブリッジラン、3.8キロのファミリーランと種目数が多い上に、最後の10キロのアップダウンを減らし、年代を問わず、参加しやすい。これを示すように、昨年のフルマラソンの1位タイム2時間14分38秒は、オーストラリアで最速の記録だ。

 また、普段は走れないハーバーブリッジを渡り、世界遺産のオペラハウスにゴールする体験もシドニーならでは。シドニーマラソン・ディレクターのウェイン・ラーデン氏は「このマラソンはオーストラリアの中で最も美しいコース。国内最高記録がでたのは次々と変わる美しい風景の中を走ることで、精神的にも体力的にもランナーが“痛み”を感じにくいからだと思う」と魅力を強調。「規模、内容ともに世界5大都市マラソンに匹敵するレベルに引き上げたい」と、意欲を語る。



スタート直前までの緊張感、親近感に気分が高揚

 にわかランナーではあるが、今回初めて3.8キロのファミリーランに参加。個人参加のため、前日にオペラハウス近くの会場へ向かい、エントリーを確認し、ゼッケンと順位を確認するための靴につけるチップをもらう。多少混みあっているが、前日からシドニーマラソンの熱気に触れることができ、気分が盛り上がってくる。会場ではシューズやシャツなどが販売されており、万が一、忘れ物をしてもこの場で入手が可能だ。

 当日は朝5時に起き、地下鉄で会場へ。街は早朝から参加者であふれ、駅の構内も車内もマラソンに参加する人々でいっぱい。荷物は持たず、または水の入ったボトルだけぶら下げて、そのままスタートラインに立てるスタイルの人が多いのが印象的だ。心地よい緊張感と親近感に満ちた“マラソン列車”は、あっという間にスタート地点近くのミルソンズポイント駅に到着。

 軽い朝食を食べ終えて周囲を見回すと、意外なほどに家族連れが多い。乳母車に子供を乗せたランナーもいて、楽しそうに写真を撮りあっている。改めて前述のウェイン氏の「太っている人も体の不自由な人も小さな子供も、すべての人が楽しめるマラソン」という言葉を実感する。6歳と8歳の娘と参加したシドニー在住の日本人女性は「日本人学校でも『参加するとバッヂがもらえる』と、話題になっている」と話し、現地の日系社会でも関心が高まっているようだ。





まさに“お祭り”の全市民参加型のマラソン

 ファミリーランは「参加することに意義がある」グループだ。おしゃべりをしながら、景色を楽しみながら、走ったり歩いたりとマイペース。心も体もリラックスできてなんとも心地よい。ハーバーブリッジは全長約1.5キロ。ファミリーランのコースの多くがブリッジを走ることになるが、そこから見渡すシドニー港の景色、そしてブリッジそのものも雄大で美しく、走りながら深呼吸をしたくなる。ゆるい下りをテンポよく走り、オペラハウスが目に飛び込んでくると、ゴールはもうすぐ。

 ゴールすると、友人とハグを交わしながら「I am so happy!」と話す、太った中年女性の英語が耳に飛び込んできて、こちらもなんだかうれしくなった。その後、次々とゴールに飛び込むフルマラソンのランナーたち。彼らの笑顔がカラッと晴れた空と白いオペラハウスによく映える。ゴールドコーストマラソンにも参加したという日本人のランナーが「景色の変化があってきれい。十分に楽しめた」と、話してくれた。

 シドニーマラソンの正式名称は「シドニー・ランニング・フェスティバル」という。「誰でも参加できる・楽しめる」の意味をこめたもので、年に1回、市民が健康と親しい人たちとの絆を祝うお祭りだ。お父さんはフルマラソン、お母さんと子供たちはファミリーマラソン。シリアスランナーは全力で、恋人たちは手をつないで走ればいい。世界3大美港の1つといわれるシドニー・ハーバーとオペラハウスの景観、さまざまな人々と一緒に走った心ときめく体験は、貴重な思い出になるに違いない。




目的型・体験型としての商品開発を

 「今年はシドニーマラソンスタートの年」と語るのは、JTB Australia取締役 インバウンド営業部長・アウトバウンド事業部長の中島節郎氏。ジェイティービー(JTB)は3年前からゴールドコーストマラソンを商品化し「手ごたえを感じた」(中島氏)ことから、今年初めてJTB中部がシドニーマラソンのパッケージツアーを発売したところ、60代と30代から40代を中心に約30名を集客。東京からの参加者もあったという。

 現地では専用バスでのコースの下見のほか、当日はゴール付近に専用テントを設け、お当や飲み物、マッサージを提供。オペラハウスの見学やブルーマウンテンズへのツアーなどのオプションも用意し、アフターマラソンも充実させた。「訪豪日本人旅行者が減少する中、目的型の商品を増やす必要があり、シドニーマラソンはその1つになりうる。時差が1時間、湿度が低く走りやすいというメリットがある。シドニーマラソンはまだ日本での知名度が低いが、ホノルルマラソン、ゴールドコーストマラソンに次ぐ新しいデスティネーションになる」と考えている。

 一方、近畿日本ツーリスト(KNT)ではパッケージツアーのオプションとしてシドニーマラソンを採用した。ツアー参加者の35名のうち、24名がマラソンに参加したことから、来年は専用パンフレットを作成して商品化につなげる意向だ。

 JTBワールドバケーションズ企画仕入部マーケティングチーム・チームマネージャーの伊藤隆明氏は今回、9キロのブリッジランに参加。「世界遺産へのゴールで幸福な気持ちになった。街並みとハーバーの調和した景観は、ランナー、特に女性にとって好印象だ」と評価しつつも、「単に商品を作るだけでは送客数は伸びないだろう。重要なのは観光局、航空会社、旅行会社など業界が一体的にプロモーションをして認知度を高めること」と語る。「シドニーマラソンは一定の商品価値がある可能性を認識した。露出度、認知度がどれだけ高まるかで取り組み方や方向性も決まってくる」と今後の方針を含ませた。





カンタス航空はプロモートをポジティブに検討

 シドニーマラソン日本事務局・ピットトラベルの石川氏は「まだまだ成長時期にある商品だが、商品価値はゴールドコーストマラソンを追い抜く可能性があると考えている」とした上で、「旅行業界全体が団結しないかぎり成功はない。まずはシドニーマラソンの良さを理解していただくことからはじめたい」と語る。そこで今後は日本市場への円滑なアプローチを目的に、日本事務局をスポーツ情報センター内に設置し、オーストラリアからは同社が、日本からはスポーツ情報センターがマーケティングを拡大していく予定。

 こうした業界の期待を受け、カンタス航空(QF)本社営業統括のロブ・ガーニー氏は「ニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局とともに、来年のシドニーマラソンのプロモートに関してポジティブに検討している」と明言する。QFよると、7月のゴールドコーストマラソンの日本人参加者数が、昨年の1200名に対し今年は1880名、応援の同行者を含めると2200名となり、大幅に増加したという。「明確な目的がある旅行は集客が期待できる、特に日本人はスポーツイベントに関心が高い。スポーツ、フード、ワインを中心に、さまざまな体験型イベントをアピールすることが大切」とし、スポーツに関してはマラソンをはじめテニス、F1などもターゲットに入れる考えだ。

 QFは今年、参加者が増加したゴールドコーストマラソンに対し、メルボルン線を1便ゴールドコースト線へ振り替えることで対応。「シドニー便への需要が増せば、臨時便の運航や機材の大型化など、臨機応変に積極的に対応したい」とも話した。







カンタス航空、エアバスA380型機を20機発注、
シドニー/ロサンゼルス線から運航

 カンタス航空(QF)は10月24日から、シドニー/ロサ
ンゼルス線にエアバスA380型機を導入する。QFは現在、
20機のA380型機を発注しており、今年末までにエアバス
A380型機3機の受領を完了し、2009年末までに8機、2013
年末までに20機を納入する計画だ。2009年1月にはシンガ
ポール経由のシドニー/ロンドン線への投入を予定して
いる。

 QFのA380型機はファーストクラスが14席、ビジネスク
ラスが72席、プレミアムエコノミーが32席、エコノミー
クラスが332席の計450席。メーカー標準座席数が525席の
ところ、座席スペースを考慮した機内仕様にしているこ
とがわかる。ファーストクラスは高いパーテーションで
プライベート空間を確保し、ほぼ個室仕様。ビジネスク
ラスはアッパーデッキにビジネスクラスラウンジを用意
し、プレミアムエコノミーにも専用のセルフサービスバ
ーを備える。

 なお、A380型機の運航にあわせ、客室乗務員のユニフォ
ームも一新。ブーメランをシンボルとする「ウリヤラ」
のデザインを取り入れた。スーツはオーストラリア産ウ
ールを使用し、ウリヤラ柄のシルバーとブルーを基調と
したスカーフやネクタイと組み合わせ、プレミアムなス
タイルを表現。女性客室乗務員は同じプリントのワンピ
ースを着用する。


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