現地レポート:ニュージーランド ロトルア マオリ文化が息づく北島

  • 2008年8月22日
マオリ文化が息づく北島で
大自然と伝統が融合アクティビティを体験


ニュージーランドの観光と言えば「自然」をイメージする人が多いだろう。しかし自然だけではなく、その自然を愛し、大切にするキーウィ(ニュージーランド人の愛称)のホスピタリティもまた魅力だ。特にマオリ文化が根付く北島では、ニュージーランド特有の自然に伝統文化が融合したユニークな体験ができ、マオリの文化や歴史に対して壁を感じることなく共感し、体感できる。今回は地熱地帯のロトルアとロトルア湖に浮かぶ無人島のモコイア島を訪れた。(取材協力:ニュージーランド政府観光局 ニュージーランド航空

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マオリのホスピタリティがはぐくんだ観光地、ロトルア

 ロトルアは、オークランドから車で約3時間、飛行機で40分の距離に位置する、北島でも人気の観光地だ。地熱地帯であるため街の中でも蒸気が立ち上り、硫黄のにおいが鼻をつく。また、マオリ文化が根付く街として、ニュージーランドの中でも観光産業が最初に発展した街としても知られる。今では年間270万人もの観光客が訪れる人気の観光地であるが、その観光産業の発端はマオリがはぐくんだもの。マオリには自分たちの持つ最高のものを惜しげなく客人に提供する“もてなし”「マナアキタンガ」の精神があり、ロトルアでは160年以上前からマオリたちが旅行者を迎えていたという。こうしたマオリの精神が現在でも受け継がれており、温泉やスパなどでもマオリの伝説や文化が反映されている。

 例えば、市内から車で15分の場所にある「ヘルズゲート&ワイオラスパ」は、ロトルアで最も活発な地熱地帯であると同時にニュージーランドで唯一、マオリ族所有の地熱地帯に隣接するスパ施設だ。敷地内にはいたるところからガスが発生しているが、柵などの囲いがなく、地熱活動の音や色を間近に見られる。人工的なアトラクションに慣れているからか、定期的ではない不規則に沸騰する地面の様子が新鮮だ。

 約22万平方メートルの広さを誇る敷地内には、多数の温泉やスパがある。マオリの戦士が傷を癒したという「カカヒの滝」や、自分の部族を守るために身投げをしたマオリの王女の名前がついた「フルティニの池」の硫黄泉などもその一つ。ぜひ試してもらいたいのは泥の温泉。灰色の泥は手ですくうとドロドロとしているが、肌に伸ばした時のさらっとした感触は癖になる。新陳代謝を活発にすると評判で、体中の毛穴が開いた後は冷たいシャワーを浴びて硫黄の温泉へ。少々ぬるめの温泉なのでゆったりとした時間を過ごすことができる。屋外の空気を感じながらのんびり入浴している間、扇のような尾で愛嬌をふりまく鳥「ファンテイル」が近くまでやってきた。飛べない鳥やユニークな色合いの鳥まで日本ではなかなか見られない種類が多く、至近距離で見られるのも楽しみのひとつになるだろう。

 また、同スパでは約1時間30分で散策する英語のガイド付きウォーキングツアーを、午前と午後に一回ずつ毎日催行。温泉やスパ以外にも動植物を見る楽しみもある。日本人の観光客は年間を通して全体の約3%ほどとだが、日本人スタッフや日本語の説明書も用意するなど、日本市場を重視している。アジアからの観光客は少ないそうだが、マオリ文化や地熱地帯について学ぶ教育旅行など、団体客の取り込みも視野に入れているという。




伝説が息づく希少種の野鳥の楽園、モコイア島

 市内から車で約10分のロトルア湖の船着場からフェリーで20分ほど。ロトルア湖の中心に浮かぶモコイア島は、飛べない鳥でニュージーランドの国鳥でもある絶滅危惧種のキーウィが8羽放たれている(08年5月末現在)、自然豊かな無人島だ。以前はマオリが暮らしていた時代があり、“ニュージーランドのロミオとジュリエット”と言われる、ヒネモアとトゥタネカイのラブストーリーが生まれた伝説が残る街としても知られている。

 身分の違いを乗り越え、マオリの部族間の争いの中で愛を守り通したラブストーリーは、ニュージーランドではとても有名な話。そんなモコイア島では、東京ドーム56個分という広大な土地に広がる大自然と、マオリの文化や伝説が感じられるウォーキングを楽しみたい。植物や鳥などの自然とマオリの生活の係わりを、実際に歩きながら説明を聞く。エンターテイメントやアトラクションで得られる楽しさではなく、自分たちの足で歴史や文化を発見できる喜びがあり、1時間以上歩いても苦にはならない。

 例えばツアーでは、マオリが料理のスパイスとして利用していた植物「カワカワ」からできたビールや、パンの試食などができる。カワカワビールはすっきりした味わいで、まさにマオリの文化に触れるウォーキングの後にはぴったりだ。ウォーキングの途中、野鳥のさえずりが聞こえる度にガイドが「これは、ニュージーランド固有の鳥“トゥイ”ね」と、その鳴き声の主を教えてくれる。モコイア島はニュージーランド自然保護省(DOC)の管理のもと、キーウィやトゥイのほかにも、コカコやティエケ、ウェカなど39種もの絶滅危惧種の鳥が生息しており、ウォーキングで多数の鳥に出会うことができるのだ。

 モコイア島のウォーキングツアーは、島の所有者であるワイオラ・エクスペリエンスが主催している。現在は1日に3回のツアーを催行し、グループのみに対応。インセンティブなどリクエストベースで夜のツアーも実施する。ロトルア/モコイア島間のフェリーもツアーにあわせて運航し、乗船定員は40名。モコイア島と同社が所有する前述のヘルズゲート&ワイオラスパを組み合わせたプランもあり、多様な可能性のある素材だ。08年5月まで日本人の訪問はなかったそうで、ロトルアの新観光素材として紹介できるだろう。





キーウィ飼育施設「キーウィエンカウンター」


 ロトルア市内から車で10分ほどの距離にある「レイン
ボースプリングス自然公園」は、ニュージーランドの野
生動物や自然を保護する施設だ。ニジマスから突然変異
で生まれたアオマスや恐竜の生き残りと言われ100年以上
生きるという爬虫類のトゥアタラなど、日本では見られ
ないユニークな動物を間近で見ることができる。この施
設の中に、ニュージーランドで初めて創られたキーウィ
飼育施設「キーウィエンカウンター」がある。

 キーウィはニュージーランドの国鳥で、約7000万年前
から生息しているが空を飛ぶことができない。そのため
オーストラリアから上陸したポッサムや犬などに襲われ
、絶滅の危機に瀕している。2004年に開園した同施設で
はこれまで、174羽のキーウィを野生に返すことに成功し
た。

 施設内ではキーウィの雛を飼育する様子や、本物の卵を
ガラス越しに見ることができる。夜行性のため、野生で
はなかなか見ることができないキーウィだが、同施設で
はガラスや敷居などがない空間に放されたキーウィを見
ることができる。長いくちばしとふわふわした丸い体が
なんとも愛らしい。見学するには、10時から16時までの
間に実施する予約制のガイド付きツアーを申し込む必要
がある。