新春トップインタビュー:エイチ・アイ・エス取締役会長 澤田秀雄氏
2000万人は達成できる数字
もっと旅に行きたくなるムーブメントを
期待とは裏腹な推移となった2007年、閉塞感漂う旅行業界で一人気を吐いていた印象が強いエイチ・アイ・エス(HIS)。各旅行会社の業績にも出国者数の減少が表れた中、広告露出を高めて海外旅行と自社の存在をアピールし、同社として過去最高の売上を達成した原動力は何か。また、今後の業界の可能性をどう見ているのか。業界全体の目標として掲げる2000万人も「やり方次第で達成可能」という同社取締役会長の澤田秀雄氏に、展望を聞いた。
(聞き手:弊社代表取締役社長 岡田直樹、構成:山田紀子)
−2007年の出国者数が0.9%減との予測がされている中、過去最高の売上を達成できた要因をどのように考えていますか
澤田秀雄氏(以下、敬称略) 今までもテロやSARSなど、よほどの大きな要因がない限り、15%から20%増は達成してきた。これはやはり、スタッフによるところが大きい。モチベーションが高く、とてもよくやってくれていると思う。平均年齢が28歳から29歳程度で元気だし、動きも早い。できる限り時代にあわせて動くことを意識しているので、高い意識レベルで迅速に動くことは重要だ。ただ、収益ではSARSで減少した平成15年以来、減益となってしまった。これに対する反省は多々ある。
成長という意味では、私は売上の伸びが良いからといって、それだけで良いかどうかは量れないと思う。商品にしても販売にしても、クオリティやサービスを追及し、新しいものを開発することなども考えたい。これについては今後、もう少し検討しなくてはいけない時期に来ていると感じている。
−御社のスタッフの販売力や意識レベルの高さは業界内からも評価が高い
澤田 仕事にあたる姿勢として、いつも「明るく元気に楽しく」を言い続けている。これは重要だ。ただ、今の状態を最上だとは思っておらず、社員の間でも満足していないと聞いている。スタッフはどうすれば昨年より今年、今年より来年がよくなるか常に考えているし、もっと高得点を取れるやり方があると思う。私は仕事の成果は、お客様に喜んでもらえる商品やサービスを提供すること、それがひいては世の中の役に立つようになればと思う。一般スタッフが5000人くらいと規模も大きくなったこともあり、スピードや意識の浸透が以前ほどのレベルではなくなってきている。来年は今以上に、スタッフレベルを含めた社員教育に力を入れていこうと思う。
−2008年の出国者数も微減が予測されています。御社の成長イメージは
澤田 常に無理のない2ケタ成長。10%から20%増だ。業界環境や他業種の動きがどうであれ、9.11やSARSなどよほどの大きな要因に巻き込まれなければ、達成できる。
−2010年に出国者数2000万人は、遂に国策となった。現在も1700万人台で推移する中、この目標をどう見るか。また、そのためにはどうするべきか、お考えをお聞かせください
澤田 2000万人は今のやり方では難しい。現状のままではうまくいっても1900万人に届かないだろう。ただ、業界全体が新しい素材をどんどん提供していくこと、そして旅行に行きたくなるムーブメントを作ること、これをすれば実現可能な数字だ。例えば、07年の韓国のアウトバウンドは1200万人ほどで、人口比で考えれば日本は2500万人でもおかしくない。控えめに見ても2000万人のマーケットがあると思う。
ムーブメントの例で言えば、2年前の「冬のソナタ」から始まった韓流ブームは、韓国への旅行者を大幅に増加させた。こういう国民全体が行ってみたいと思える雰囲気を作ること。これは我々も含め、業界が対応してこなかったので、反省している。
失礼な言い方だと思うが、各社とも競争していても、その戦略は昨年と何が違うだろうか。他社のマネばかりでなく、新商品の開発と旅行をしたくなる雰囲気を作る戦略を、せめて大手数社でも作らなければ需要喚起はできない。各社が新しいことをするから、新しいマーケットができあがる。各社がそれぞれのやり方で責任を果たせば2000万人は難しいことじゃない。総需要を喚起する活動が、旅行業では少なすぎるのではないか。
−業界の取り組みといえばチャーター。特に地方発の需要喚起として注目されていますね
澤田 地方発のチャーターはアクセス利便の向上のため、どんどん増やすべき。ただ、今まで大手がしていたのはワン・ウェイが多く、それでは旅行代金が高くなってしまう。双方向チャーターもやるべきで、アジアの人に日本に来てもらえば地方振興と観光の活性化になり、地方の利益が増える。われわれとしてはこうした新しい取り組みはどんどんしていきたいと思っている。
インバウンドもこれから増えると思う。私は政府の観光立国推進会議の委員もしており、HISはアウトバウンドが得意な会社だが、インバウンドは日本のためになるので、その手助けを徐々にしている。HISではHISエクスペリエンス・ジャパンでインバウンドの取り扱いを開始しており、日本の文化や伝統、趣味を体験できるツアーなど、日本のいい面や歴史的なものに触れ、楽しんでもらえる会社を作っている。
ただ、インバウンドで懸念しているのは人数のみならず、日本の旅行業界がもっと収益を上げられる体制を作ること。現在、海外から日本に送客する一部のツアーでは、日本の旅行会社を使わずにスルーガイドなどを用い、値段だけで宿や食事、旅程を決めるケースが散見される。そのようなクオリティの低いツアーでは日本のイメージが悪くなり、リピートされない。きちんとしたツアーを作っている会社も採算がとれなくなる。規制ばかりでは良くないが、日本の食事や文化など、もっといいところを見てもらうための取り締まりも大切だと思う。
−新しい取り組みをした企業といえば、最大手のJTBは分社化や海外戦略など、今までとは違う動きをはじめている
澤田 今やグローバル化の時代。通信や航空が発達した今、時代の流れに乗った戦略で、非常にアグレッシブだと思う。逆に我々の方が、一歩も二歩も遅れを取っている気がする。ただ、我々もグローバル化は分かっていたことで、将来的には考えないこともない。今は言えないが、独自のスタイルでやっていくのがHISだし、マネをする考えはない。別の手を考えている。やはりHISはHISらしくなくては。
−「HISらしさ」とは何ですか
澤田 常に新しいことをやってきた。大手が個人旅行に取り組んでいないときに始め、飛行機も飛ばした。大手がしていないから伸びたし、大手がやりにくいことをしてきたからこそ消費者に支持され、2ケタ成長を実現したと思う。同じことをしたらHISの存在意義はない。もちろん、基本はあるが、新しいものを作り上げていかなければ新市場はできないし、差別化にもならず、競争力もなくなる。大手化すると薄れてくる部分もあるが、このマインドは残していかなくてはならない。
(HISの)格安航空券販売は若者に対し、バックパック旅行のムーブメントの一助にもなったと思う。私は若い人にもっと旅をしてほしいし、若い人が旅に出かけられる国であってほしい。旅には大変さもあるが楽しさがあり、いろいろなものが見られる。感受性が強く、吸収力のある若い時期に、各地の人々の活躍を見てほしい。そして社内、業界内でも今後は若い人に活躍してもらいたい。みんなで考え、新しいものにチャレンジしていく風土であるべきだろう。自分が先頭に立ってやっていくことはないが、分かりにくいところ、足りないところは手助けしていきたい。
−ありがとうございました
もっと旅に行きたくなるムーブメントを
期待とは裏腹な推移となった2007年、閉塞感漂う旅行業界で一人気を吐いていた印象が強いエイチ・アイ・エス(HIS)。各旅行会社の業績にも出国者数の減少が表れた中、広告露出を高めて海外旅行と自社の存在をアピールし、同社として過去最高の売上を達成した原動力は何か。また、今後の業界の可能性をどう見ているのか。業界全体の目標として掲げる2000万人も「やり方次第で達成可能」という同社取締役会長の澤田秀雄氏に、展望を聞いた。
(聞き手:弊社代表取締役社長 岡田直樹、構成:山田紀子)
−2007年の出国者数が0.9%減との予測がされている中、過去最高の売上を達成できた要因をどのように考えていますか
澤田秀雄氏(以下、敬称略) 今までもテロやSARSなど、よほどの大きな要因がない限り、15%から20%増は達成してきた。これはやはり、スタッフによるところが大きい。モチベーションが高く、とてもよくやってくれていると思う。平均年齢が28歳から29歳程度で元気だし、動きも早い。できる限り時代にあわせて動くことを意識しているので、高い意識レベルで迅速に動くことは重要だ。ただ、収益ではSARSで減少した平成15年以来、減益となってしまった。これに対する反省は多々ある。
成長という意味では、私は売上の伸びが良いからといって、それだけで良いかどうかは量れないと思う。商品にしても販売にしても、クオリティやサービスを追及し、新しいものを開発することなども考えたい。これについては今後、もう少し検討しなくてはいけない時期に来ていると感じている。
−御社のスタッフの販売力や意識レベルの高さは業界内からも評価が高い
澤田 仕事にあたる姿勢として、いつも「明るく元気に楽しく」を言い続けている。これは重要だ。ただ、今の状態を最上だとは思っておらず、社員の間でも満足していないと聞いている。スタッフはどうすれば昨年より今年、今年より来年がよくなるか常に考えているし、もっと高得点を取れるやり方があると思う。私は仕事の成果は、お客様に喜んでもらえる商品やサービスを提供すること、それがひいては世の中の役に立つようになればと思う。一般スタッフが5000人くらいと規模も大きくなったこともあり、スピードや意識の浸透が以前ほどのレベルではなくなってきている。来年は今以上に、スタッフレベルを含めた社員教育に力を入れていこうと思う。
−2008年の出国者数も微減が予測されています。御社の成長イメージは
澤田 常に無理のない2ケタ成長。10%から20%増だ。業界環境や他業種の動きがどうであれ、9.11やSARSなどよほどの大きな要因に巻き込まれなければ、達成できる。
−2010年に出国者数2000万人は、遂に国策となった。現在も1700万人台で推移する中、この目標をどう見るか。また、そのためにはどうするべきか、お考えをお聞かせください
澤田 2000万人は今のやり方では難しい。現状のままではうまくいっても1900万人に届かないだろう。ただ、業界全体が新しい素材をどんどん提供していくこと、そして旅行に行きたくなるムーブメントを作ること、これをすれば実現可能な数字だ。例えば、07年の韓国のアウトバウンドは1200万人ほどで、人口比で考えれば日本は2500万人でもおかしくない。控えめに見ても2000万人のマーケットがあると思う。
ムーブメントの例で言えば、2年前の「冬のソナタ」から始まった韓流ブームは、韓国への旅行者を大幅に増加させた。こういう国民全体が行ってみたいと思える雰囲気を作ること。これは我々も含め、業界が対応してこなかったので、反省している。
失礼な言い方だと思うが、各社とも競争していても、その戦略は昨年と何が違うだろうか。他社のマネばかりでなく、新商品の開発と旅行をしたくなる雰囲気を作る戦略を、せめて大手数社でも作らなければ需要喚起はできない。各社が新しいことをするから、新しいマーケットができあがる。各社がそれぞれのやり方で責任を果たせば2000万人は難しいことじゃない。総需要を喚起する活動が、旅行業では少なすぎるのではないか。
−業界の取り組みといえばチャーター。特に地方発の需要喚起として注目されていますね
澤田 地方発のチャーターはアクセス利便の向上のため、どんどん増やすべき。ただ、今まで大手がしていたのはワン・ウェイが多く、それでは旅行代金が高くなってしまう。双方向チャーターもやるべきで、アジアの人に日本に来てもらえば地方振興と観光の活性化になり、地方の利益が増える。われわれとしてはこうした新しい取り組みはどんどんしていきたいと思っている。
インバウンドもこれから増えると思う。私は政府の観光立国推進会議の委員もしており、HISはアウトバウンドが得意な会社だが、インバウンドは日本のためになるので、その手助けを徐々にしている。HISではHISエクスペリエンス・ジャパンでインバウンドの取り扱いを開始しており、日本の文化や伝統、趣味を体験できるツアーなど、日本のいい面や歴史的なものに触れ、楽しんでもらえる会社を作っている。
ただ、インバウンドで懸念しているのは人数のみならず、日本の旅行業界がもっと収益を上げられる体制を作ること。現在、海外から日本に送客する一部のツアーでは、日本の旅行会社を使わずにスルーガイドなどを用い、値段だけで宿や食事、旅程を決めるケースが散見される。そのようなクオリティの低いツアーでは日本のイメージが悪くなり、リピートされない。きちんとしたツアーを作っている会社も採算がとれなくなる。規制ばかりでは良くないが、日本の食事や文化など、もっといいところを見てもらうための取り締まりも大切だと思う。
−新しい取り組みをした企業といえば、最大手のJTBは分社化や海外戦略など、今までとは違う動きをはじめている
澤田 今やグローバル化の時代。通信や航空が発達した今、時代の流れに乗った戦略で、非常にアグレッシブだと思う。逆に我々の方が、一歩も二歩も遅れを取っている気がする。ただ、我々もグローバル化は分かっていたことで、将来的には考えないこともない。今は言えないが、独自のスタイルでやっていくのがHISだし、マネをする考えはない。別の手を考えている。やはりHISはHISらしくなくては。
−「HISらしさ」とは何ですか
澤田 常に新しいことをやってきた。大手が個人旅行に取り組んでいないときに始め、飛行機も飛ばした。大手がしていないから伸びたし、大手がやりにくいことをしてきたからこそ消費者に支持され、2ケタ成長を実現したと思う。同じことをしたらHISの存在意義はない。もちろん、基本はあるが、新しいものを作り上げていかなければ新市場はできないし、差別化にもならず、競争力もなくなる。大手化すると薄れてくる部分もあるが、このマインドは残していかなくてはならない。
(HISの)格安航空券販売は若者に対し、バックパック旅行のムーブメントの一助にもなったと思う。私は若い人にもっと旅をしてほしいし、若い人が旅に出かけられる国であってほしい。旅には大変さもあるが楽しさがあり、いろいろなものが見られる。感受性が強く、吸収力のある若い時期に、各地の人々の活躍を見てほしい。そして社内、業界内でも今後は若い人に活躍してもらいたい。みんなで考え、新しいものにチャレンジしていく風土であるべきだろう。自分が先頭に立ってやっていくことはないが、分かりにくいところ、足りないところは手助けしていきたい。
−ありがとうございました