法律豆知識・第66回、旅行広告の写真は苦労の種、ある経営者の相談から
広告に掲載する写真選びは、旅行業者も常々苦労しているであろう。その選択の是非で、売り上げも左右されるはずである。しかし、旅行者へのアピールを考えるあまり、勇み足とも思える例も見受けられる。無用なトラブルにならないよう、今回は、旅行広告の写真について検討することにしよう。
1:ペンションのパンフレット写真でトラブル
2:写真で消費者は旅行を決断
3:ガイドラインでも不安ならば
4:今週の法律:「消費者契約法」
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▽ペンションのパンフレット写真でトラブル
最近のことであるが、国内のペンションを経営している人から、パンフレットの写真のことで、お客とトラブルになっているという相談を受けた。
そのペンションは、3ランクの部屋があるが、パンフレットには最上位のランクの写真を掲載していたところ、最下位の部屋を注文したあるお客が、到着するなり自分お部屋がその写真とは違うといって怒りだし、説得を振り切って帰ってしまった。しかも、後から旅行が出来なくなったことについての慰謝料を支払えとまで言い出したので、相談に来たのであった。
パンフレットを見ると、部屋の写真に最上級の部屋である、との説明はなかった。おそらく、ペンション内で、一番良い部屋の一番眺望の良い部屋を撮影したのであろう。しかし、その部屋は、最上級で、他のクラスは部屋の質も眺望も異なるという事を率直に説明しておけば、このようなトラブルは起きなかったはずだ。
最上級と記載していない以上、お客がそのような部屋だと期待するのは無視できない。とはいえ、部屋にランクがあることは旅金表から明らかである。また、ホテルやペンションは部屋により、構成や眺望が異なることは常識である。自分の予約したクラスが、その写真の通りと決めつけるのが一方的すぎることは間違いない。裁判になれば、ペンション側が勝つ可能性は高い。
しかし、現代の立法傾向、裁判の動向は、業者の消費者に対する情報提供義務を重視する。写真を掲載するときには、その位置づけを曖昧にせず、旅行者に誤解を与えないよう、丁寧な説明を付すべきである。
▽写真で消費者は旅行を決断
写真と現実とが異なることからのクレームは、企画旅行の募集に際しても、よく起こるので注意されたい。
旅行目的地の国の風景であっても、該当のパックツアーの目的地でなく、訪問予定のない場所の風景写真やイラストを掲載するケースもあるのではないだろうか。例えば、北イタリアのみの旅行なのに、南イタリアの写真を掲載してしまう。目的地で行われる祭事やフェスティバルではあるが、当のツアーの時期には行われないものであるというケース。旅行の出発時期とは違う季節の風景写真を掲載してしまうケース、例えばツアーは、春なのに秋の写真を掲載するような例、などがありうる。
旅行目的地以外の写真、時期は違ってもその国の代表的祭事の写真、違う季節の風景の写真であっても、その国のイメージづくりには役立つので、旅行者にとっても掲載する意義はあり得る。
しかし、意義はあるといっても、そのパンフレットをみて、そのツアーに参加するとその写真にあるところ、あるいは、そのような景色に遭遇できるという誤信をして旅行契約を締結。もし、その写真に出会うことがなかったら、旅行を決断しなかったはずというケースが最も困る。このような場合は、後述のように、消費者契約法で取り消され得るのだ。
▽ガイドラインでも不安ならば
日本旅行業協会(JATA)作成の「旅行広告作成ガイドライン」では、ツアーの目的地と写真等の場所や季節が異なるときに、原則的には、「写真、イラストがイメージである」旨を明示する事を求めている。ただし例外的に、日程表の記載のない、表紙や目次、旅行コースについての一般情報、旅行手続き案内などに記載する時には、イメージである旨を明示しなくても良いとしている。ガイドラインとしては、これは合理的な線引きといえよう。
しかし、ここでは消費者契約法に注意する必要がある。仮に表紙への掲載でも、募集パンフレットの全体構成から、応募者が自分の旅行の目的地がそのようなものだと誤信して申し込むような状況があると、虚偽事実の告知ということでその旅行契約が取消される可能性がある(4条1項1号)。
情報提供は、出来るだけ省力せずに、豊かに丁寧にすべきであろう。これからは、旅行者からみても、不利益情報を含め、豊かで的確な情報を提供してくれる業者が、より信用出来る業者として、売り上げを伸ばしていくことになるはずである。
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▽今週の法律:「消費者契約法」
第二章 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆 金子博人弁護士
[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
▽ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
▽IFTTAサイト http://www.ifta.org/
1:ペンションのパンフレット写真でトラブル
2:写真で消費者は旅行を決断
3:ガイドラインでも不安ならば
4:今週の法律:「消費者契約法」
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▽ペンションのパンフレット写真でトラブル
最近のことであるが、国内のペンションを経営している人から、パンフレットの写真のことで、お客とトラブルになっているという相談を受けた。
そのペンションは、3ランクの部屋があるが、パンフレットには最上位のランクの写真を掲載していたところ、最下位の部屋を注文したあるお客が、到着するなり自分お部屋がその写真とは違うといって怒りだし、説得を振り切って帰ってしまった。しかも、後から旅行が出来なくなったことについての慰謝料を支払えとまで言い出したので、相談に来たのであった。
パンフレットを見ると、部屋の写真に最上級の部屋である、との説明はなかった。おそらく、ペンション内で、一番良い部屋の一番眺望の良い部屋を撮影したのであろう。しかし、その部屋は、最上級で、他のクラスは部屋の質も眺望も異なるという事を率直に説明しておけば、このようなトラブルは起きなかったはずだ。
最上級と記載していない以上、お客がそのような部屋だと期待するのは無視できない。とはいえ、部屋にランクがあることは旅金表から明らかである。また、ホテルやペンションは部屋により、構成や眺望が異なることは常識である。自分の予約したクラスが、その写真の通りと決めつけるのが一方的すぎることは間違いない。裁判になれば、ペンション側が勝つ可能性は高い。
しかし、現代の立法傾向、裁判の動向は、業者の消費者に対する情報提供義務を重視する。写真を掲載するときには、その位置づけを曖昧にせず、旅行者に誤解を与えないよう、丁寧な説明を付すべきである。
▽写真で消費者は旅行を決断
写真と現実とが異なることからのクレームは、企画旅行の募集に際しても、よく起こるので注意されたい。
旅行目的地の国の風景であっても、該当のパックツアーの目的地でなく、訪問予定のない場所の風景写真やイラストを掲載するケースもあるのではないだろうか。例えば、北イタリアのみの旅行なのに、南イタリアの写真を掲載してしまう。目的地で行われる祭事やフェスティバルではあるが、当のツアーの時期には行われないものであるというケース。旅行の出発時期とは違う季節の風景写真を掲載してしまうケース、例えばツアーは、春なのに秋の写真を掲載するような例、などがありうる。
旅行目的地以外の写真、時期は違ってもその国の代表的祭事の写真、違う季節の風景の写真であっても、その国のイメージづくりには役立つので、旅行者にとっても掲載する意義はあり得る。
しかし、意義はあるといっても、そのパンフレットをみて、そのツアーに参加するとその写真にあるところ、あるいは、そのような景色に遭遇できるという誤信をして旅行契約を締結。もし、その写真に出会うことがなかったら、旅行を決断しなかったはずというケースが最も困る。このような場合は、後述のように、消費者契約法で取り消され得るのだ。
▽ガイドラインでも不安ならば
日本旅行業協会(JATA)作成の「旅行広告作成ガイドライン」では、ツアーの目的地と写真等の場所や季節が異なるときに、原則的には、「写真、イラストがイメージである」旨を明示する事を求めている。ただし例外的に、日程表の記載のない、表紙や目次、旅行コースについての一般情報、旅行手続き案内などに記載する時には、イメージである旨を明示しなくても良いとしている。ガイドラインとしては、これは合理的な線引きといえよう。
しかし、ここでは消費者契約法に注意する必要がある。仮に表紙への掲載でも、募集パンフレットの全体構成から、応募者が自分の旅行の目的地がそのようなものだと誤信して申し込むような状況があると、虚偽事実の告知ということでその旅行契約が取消される可能性がある(4条1項1号)。
情報提供は、出来るだけ省力せずに、豊かに丁寧にすべきであろう。これからは、旅行者からみても、不利益情報を含め、豊かで的確な情報を提供してくれる業者が、より信用出来る業者として、売り上げを伸ばしていくことになるはずである。
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▽今週の法律:「消費者契約法」
第二章 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆 金子博人弁護士
[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
▽ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
▽IFTTAサイト http://www.ifta.org/