法律豆知識、イタリアでバス事故発生! 旅行業者の対応で訴訟に発展

  • 2005年9月17日
 今回は、現在進行形で訴訟されているケースを紹介する。ただし、日本ではなくアメリカでの訴訟。ただし、事故から訴訟へ至るまでの旅行業者の対応次第では訴訟までに至らない場合もあるはずだ。どういう対応で訴訟を未然に防ぐかの参考にして頂きたい。

▽バス事故発生
 わたしの事務所に、イタリアにいるという綾子(仮名)さんから国際電話が入った。彼女は、アメリカ人の男性と結婚し、ロサンゼルスに在住。ヨーロッパ旅行のため、インターネットでバスツアーを申し込みツアーに参加した。しかし、ツアーの途中、スイスからイタリアに入ったところで、乗っていたバスが横転し、ご主人共々、重傷を負った。入院するイタリアの病院から電話をかけているという。
 詳しく聞くと、アメリカやヨーロッパから参加したツアー客は10名程度で、大部分が重傷。第一報の電話で綾子さんは、「一番前にいたバスガイドは死亡しているかもしれない」とのことであり、大きな事故であったことが想像できる。
 ところが、主催した旅行業者は今の病院は料金が高いので他の病院に移させよう、あるいは他の乗客の動向を知らせないなど、事故後の対応が極めて不誠実であった。綾子さんは心配になり、今後の対応について日本大使館に連絡を取った。だが、「『民間人』の問題まで大使館は対応できない」と、けんもほろろであった。そこで困って私の事務所に電話をしてきたのだ。
 綾子さんの話では、ご主人がアメリカ大使館に電話したところ、「英語の出来るイタリアの弁護士を派遣するのでよく相談するように、と言われた」という。私としては、「とりあえず、派遣されるイタリアの弁護士を頼って対処してもらい、それでもうまく事が進まないなら、もう一度電話するように」と告げ、電話を切った。
 その後、イタリア人弁護士の尽力で、綾子さん夫婦は無事、アメリカに帰国できた。しかし、旅行業者に対する不信感は解消できず、現在LAで旅行業者を相手に訴訟を提起。私の属する国際旅行法学界(IFTTA)の創立メンバーの弁護士が代理人として対応している。

▽大使館の対応
 外国で事故に巻き込まれた場合、母国の大使館に相談することは、緊急時の問題を解決する一つの手段。ところが、綾子さんの一件では日本大使館と米国大使館の対応は全く違っていた。米国大使館は、英語の出来る弁護士をすぐ派遣し、対処。他方、日本大使館は、そんなことは自分たちで解決しろとばかりに、いわゆる「自己責任」の扱いとした。
 このケースに限らず、私の知る限り、日本大使館は「自国民の保護」という意識はほとんどないのが現実である。海外でツアー中に事故や病人がでた時、日本大使館は頼りにならない。「自己責任」というよりも「自己防衛」の意味でも、現実を認識しておく必要がある。そして旅行業者は、これを前提にどう対処するか、現実的な手順を準備して置く事も必要だ。

▽最初のボタンの掛け違いがないように
 今回の訴訟に至る経緯では、旅行業者が安い病院に移させようとしたり、他のツアー客の情報を隠したりしたことによって生じた不信感が主因だ。こうした状況から、事のはじめから弁護士が介入する事態となっている。今回は消費者の立場から弁護する側に周り判断すると、治療費の負担を少なくしようと、病院を変えようと画策し、旅行者の結束を防ぐために、他の旅行者の情報を伝達しなかったと考えうる。
 今回の業者のような対応は、不信感や不誠実を旅行者に増大させるだけで、得られるものはもとより、損する方が多いはずだ。旅行業者は事故が起きてしまった以上、可能な限り誠意をつくすことがもっとも負担を低減する最良の手段だということを忘れないで欲しい。最初のボタンの掛け違いは、最後まで響くものである。

 なお、今回のケースはアメリカの訴訟手続きの中でどのような展開をしていくか、生の状況を本コーナーで随時報告する予定だ。