"感性"は育てられるのか?人を思いやる力が、職場を変えていく-縁多 日比野元哉氏

 新年度も落ち着き、そろそろ新しい環境に慣れてきた頃ではないでしょうか。「さあ、これからだ!」と意気込む方もいれば、「なんだか思っていたのと違うな…」と違和感を覚え始めている方もいるかもしれません。

 だからこそ今、大切にしたいのが、「人を育てる土壌」を見つめ直す視点です。

 前回のコラムでは、「伝わる」コミュニケーションを支える脳と心の働き、そして"安心できる関係性"の大切さについてお話ししました。今回はその延長線上として、「感性は育てられるのか?」という問いを取り上げてみます。

感性とは、「心の受信力」である

 「感性」と聞くと、「センスがある」「空気が読める」といった、先天的な才能を思い浮かべる方が多いかもしれません。

 でも、現場で必要とされる「感性」はもっと身近で、日々の対話や観察を通して育まれる“人と関わる力”なのです。

  • たとえば──
  • ●相手の表情や声のトーンに気づけるか
  • ●声をかけるタイミングを感じ取れるか
  • ●「ありがとう」の言葉に本心がこもっているかを察知できるか

 こうした「小さな感受性の力」は、接客・宿泊業の質を大きく左右します。だから私は、「感性は業務の土台であり、育てることができる」と考えています。

なぜ今、感性が求められているのか?

  • 現場ではよく、こんな声が聞かれます。
  • ●「若手は気が利かない」
  • ●「言われたことしかやらない」
  • ●「相手の気持ちを想像できない」

 確かに、デジタル社会の中で育った若者は、人との"間"を体験する機会が少なかったのかもしれません。でも、それを嘆くのではなく、「感性は育てられるもの」として関わる姿勢が、今こそ求められているのです。

感性が育つ職場と育たない職場の違い

 感性が育つかどうかは、職場環境に大きく左右されます。以下に、その違いを簡潔にまとめてみました。

観点感性が育つ職場感性が育たない職場
感情の扱い方感情を言葉にし、共有する習慣がある感情は「仕事に不要」とみなされる
関係性の質安心・信頼を土台にした関係性がある評価や比較が前提になる
失敗への対応背景を理解し、対話する指摘や注意が中心になる
上司・育成者の役割「観察者」として関わる「正解を教える人」として振る舞う


 これは決して理想論ではありません。実際、こうした視点を取り入れた宿泊施設では、職場の雰囲気が変わり、スタッフの自主性が育ち始めています。