観光で地域を活性化するための道筋vol.2~観光地域マーケティングを成功に導くための糸口-デイアライブ 川口政樹氏

観光地域マーケティングを成功に導くための糸口

 合意形成の難しさは、「全体最適 vs 個別最適」の問題である、と言い換えることができそうです。

 地域全体の競争力を高められなければ、そもそも観光客を呼び込むことが難しくなり、結果として地域内の事業者間の競争はさらに厳しくなるリスクがある、ということは理解してもらいやすい=総論賛成にはなるものの、具体的な事業検討(予算配分)の話になると、それぞれの思惑が衝突して合意に至りにくい=各論反対、という構図ですね。

 合意形成の難しさについて、「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」には、「ステークホルダーとの合意形成」の項目において、

観光地域マーケティングでは、DMO とステークホルダーがそれぞれマーケティングプロセス内の役割を担う場合があるという特性を理解した上で、各自のマーケティングプロセス間の齟齬が発生しないよう、DMO側で納得感のある戦略を地域のステークホルダーとの合意形成を経て策定し、域内のほかのステークホルダーへの丁寧な戦略共有を行うことが必要となります。

 と記載されています。

 逆に言えば、事業者にとって納得感のある地域全体の戦略がないと、事業者ごとに個別最適された戦略に基づく意見が噴出し、合意形成が難しくなる、ということです。

 となると、事業者だけでなく、地域のさまざまな関係者全員にとって納得感のある「観光地域マーケティング戦略」を策定することができるかどうか、がカギを握っていると言えそうです。

 ここで重要なのは、納得感を優先するために、総花的な戦略にしない、ということ。

 マーケティングの第一人者である森岡毅氏は、著書『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』の中で、「戦略とは、目的を達成するために資源(リソース)を配分する選択のこと」と定義し、次のように書かれています。

常に足りない経営資源を、選ぶことで足りるようにするのです。何に集中するのかを選ぶのです。やることを選ぶということは、同時にやらないことを選ぶということ。これが戦略の核となる考え方の「選択と集中」です。全てをやろうとすることは、つまり選ばないということは、戦略がないということです。とりあえず全てをやろうとすることは、意味なく経営資源を分散させてしまうだけ。愚か者のすることです。

 これは、本当に耳の痛い言葉ですね。。。

 DMOにおけるさまざまな課題が、この言葉に凝縮していると言っても過言ではないかもしれません。

 「やらないこと」を選ぶのは、行政が最も苦手とする領域。となると、DMOが事業者と議論を重ねてつくりあげるしかありません。この困難なプロセスを乗り越えることこそが、「合意形成」という名の真の協働作業と言えるでしょう。

 事業者とともに、「やらないことを明確にした観光地域マーケティング戦略」を策定すること。

 これが、ハードルの高い「観光地域マーケティング」を成功に導くための糸口となるのではないでしょうか。

<過去記事はこちら>
観光で地域を活性化するための道筋vol.1~観光の目的と地域経済活性化の4つの方向性

川口政樹
1996年三重県庁に入庁後、農林、土木、福祉、教育などの行政分野での勤務を経て、2015年から観光行政に携わる。三重県観光連盟出向中に、事務局次長として公式サイトやSNSを全国1位に育てあげるとともに、サイトを活用したマネタイズの仕組みを構築し、DMOの収益構造を大きく改善。
出向後は、県庁にて観光DXの推進や観光振興基本計画の策定を担当。2024年から株式会社デイアライブにて、セミナー講師、観光DX・デジタルマーケティングの支援、観光人材育成などを行っている。観光庁「令和6年度 地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家。