観光で地域を活性化するための道筋vol.1~観光の目的と地域経済活性化の4つの方向性-デイアライブ 川口政樹氏
地域経済活性化の4つの方向性
観光のプラスのインパクトとして最も重要なのは「地域経済の活性化」です。自治体やDMOにおいて、目標指標を「観光消費額」としているところが大半となっていることから、地域経済活性化について考えていきます。
まず、地域の経済を考えるうえでは、国における「輸出」と「輸入」と同様の考え方をする必要があります。地域において、地域外へ販売した財・サービスのことを「移出」と呼び、地域外から購入した財・サービスのことを「移入」と呼びます。地域外には国外(輸出入)も含まれることから、それぞれ「移輸出」「移輸入」という言葉になります。
地域の経済を活性化させるには、地域外から稼ぐ「移輸出」を増やし、地域外へ流出していく「移輸入」を防いでいくことが必要であり、それぞれ2つずつ取り組みの方向性があります。
移輸出の1つ目が「観光誘客」。地域の外から人を呼び込み、地域内で消費してもらうことは、外貨獲得の有力な手段となりますね。国においても、他の輸出産業と比較し、2024年上半期では自動車(完成品)の8.6兆円に続く輸出産業がインバウンド(訪日外国人消費額3.9兆円)、との見方を示しているところです。
移輸出の2つ目は「地産外商」で、地域で産み出したものを地域の外へ販売していくことです。
一方、移輸入の1つ目は、最近注目が高まっている「域内調達」です。いくら観光客が地域内で消費をして「観光消費額」が増加しても、消費した商品の原材料が地域外から購入したものであれば、地域に落ちる実質的なお金は増えないので意味ないじゃん、ということですね。つまり、「観光消費額」だけでは観光が地域経済活性化の手段として適切だったかどうかは測れず、「域内調達率」もセットで考える必要があるのでは、ということです。
これについては、今年の9月25日に開催された「第5回観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」にて、DMOの登録要件の見直しについて審議された際、「DMOに最低限設定を求めるKPI」の案として「域内調達率」が提示されて話題となりました。
移輸入の2つ目は「移輸入代替」ということで、地域内にないから地域外から購入せざるをえなかったものについて、別のもので代替することはできないか、ということです。
以上4つが地域経済活性化の4つの方向性です。「観光誘客」は地域にプラスのインパクトを与えるためにもちろん有用ですが、他にも手段があること、他の方向性にも配慮することが必要ということをご理解いただけたかと思います。
なお、地域における移輸出や移輸入の具体的な数字については「産業連関表」というものを作成しないと正確に測ることはできません。が、産業連関表は5年に一度しか作成されず、しかも都道府県レベルのものしかない、というのが現状。(それだけ、作成することが大変だということです)
とはいえ、正確に効果を測定すること自体は目的ではないので、観光振興の目的や目標指標を考えるうえで、このような構造を理解したうえで、観光が「手段」として機能しているのか、を地域の現状を踏まえて考えていくことが大切だと思います。
1996年三重県庁に入庁後、農林、土木、福祉、教育などの行政分野での勤務を経て、2015年から観光行政に携わる。三重県観光連盟出向中に、事務局次長として公式サイトやSNSを全国1位に育てあげるとともに、サイトを活用したマネタイズの仕組みを構築し、DMOの収益構造を大きく改善。
出向後は、県庁にて観光DXの推進や観光振興基本計画の策定を担当。2024年から株式会社デイアライブにて、セミナー講師、観光DX・デジタルマーケティングの支援、観光人材育成などを行っている。観光庁「令和6年度 地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家。