DMO、二重価格どう考える?観光庁観光地域振興部長に聞く地域観光の課題とこれから【対談】

  • 2024年8月22日

 今年7月1日付けの人事で観光庁観光地域振興部長に就任した長﨑敏志氏。2014年からの2年間にも、観光地域振興部観光資源課長を務めていた同氏にとっては8年ぶりの観光庁着任となった。観光産業ではこの間コロナ禍も含め大きな変化を迎えたが、同氏はこれからの地域観光の課題をどう見るか、対談を実施。主に聞き手として登壇したのは、政府の観光政策に精通し、全国で観光コンテンツの開発や観光人材教育を幅広く手掛けている内閣府地域活性化伝道師で跡見学園女子大学の篠原靖准教授。対談では「DMO」「二重価格」「宿泊税」など、現在議論が進む諸課題から今後の地域観光振興に関して様々な見解が語られた。

(左から)跡見学園女子大学 篠原氏、観光庁 長﨑氏

篠原靖氏(以下敬称略) 8年ぶりに観光庁に戻られたが、観光庁を離れていた間も全国で多くの地域の支援を手掛けており、今回の観光地域振興部長への着任を待望されていた方も多くいる。先ずはおめでとうございます。

長﨑敏志氏(以下敬称略) ありがとうございます。先日出席した観光関連の会議でも皆様から「おかえりなさい」とお声掛けいただき、感慨深く感じるとともに、非常に身が引き締まる思い。

 前回観光庁に在籍していたのは2014年7月からの2年間だったが、振り返ると、2013年に初めて訪日外国人は年間1000万人達成、2015年には1973万7409人と約2000万人に達すると同時に、訪日者数が出国者数を上回るという大きな転換期を迎えていた。

 当時在籍していた観光資源課でも、予算規模は2014年の10億円から、15年20億円、16年には60億円と劇的に増加したが、急激に増えた予算をどのように地域観光振興に意味のある形で反映できるか、日々悩みながら務めていた。戻ってきた今、そのようなかつての苦労なども含め思い出されるが、心新たにやっていきたい。

篠原 今回の着任前には、国際博覧会推進本部事務局次長として「大阪・関西万博」に関わっておられたが。

長﨑 万博については、現在来場者数目標が2290万となっているが、その内350万人程は海外からの来場者と想定している。これを実現するためには、万博とプラスαの観光体験が必要だ。開催まで残り1年を切って国際博覧会推進本部を去ることになったのは若干心残りもあるが、幸い観光庁に戻ってこられた。この新たなポジションで万博に貢献していきたい。

篠原 観光庁を離れていた8年間には、コロナ禍も経て大きく変化があった。昨年に閣議決定した観光立国推進基本計画では、持続可能な観光、消費額拡大、地方誘客促進の3つを柱に、地方創生・地方消費がますます重要になってきているが、前回在籍時と違い課題感にどのような変化があるとお考えか。

長﨑 過去10年間では、人数ベースでの政策目標がメインだったが、現在は消費額やその地域における効果について、より精緻に議論が進められている。

 観光立国推進基本計画で掲げられている3本柱で言えば、「持続可能な観光」は観光産業を単に"楽しい"ということではなく、如何に重要な産業として育てていくべきかという姿勢の表れだ。具体例を挙げれば、DMOをどのように育成するか、ランドオペレーターやOTAなど比較的新たな業種を、観光庁としてどういう位置付けを持って、どのように業務を適正化していくのか。産業育成を考える上で、そういった課題が整理されてきたと理解している。

 また、「消費額の拡大」は、これまでの日本は貿易などを中心に発展してきた訳だが、近年貿易赤字が続く中で「インバウンド」は大きな意味を持っている。そして、これをどのように生かしていくのかが大変重要で、「消滅可能性自治体」の問題がクローズアップされている中、我々観光庁としてできるのは、全国津々浦々に、そこに仕事があって、経済、生活が成立するという姿を作っていくことと感じている。

篠原 仰る通り日本の産業構造は変わり、今後の伸びしろとしてもインバウンドで外貨を稼いでいくということになろうかと思う。これまでの観光庁の政策では、数を追ってきた面があるが、今後は地域で消費に繋げる、地域振興をベースに育てていく必要があると思う。

長﨑 地方誘客を進める上で、まさに「稼ぐ力」をどう育成していくのかが昨今、より課題として浮き彫りになってきた。そういった中で、先ほど申し上げたように観光庁の予算も増え、支援メニューも充実している。

 一方で、今後ポイントになるのが取り組みを通して地域にどのような影響を与えたかという評価の部分。真に地域観光振興を進めていく上では、個々の施策毎ではなく地域全体として評価を行うべきだが、支援メニューやプレーヤーが多様化している中では地域全体としての評価が難しくなっている。