意義ある視察旅行のアピールでリピーターを呼び込む オレゴン州・ポートランド

  • 2024年1月30日

 明確に視察を目的とする旅行が少しずつ戻って来ているという米国オレゴン州ポートランド。その背景について、現地ツアー会社へのヒヤリングを含めてまとめてみた。

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ユニークな住民意識を誇るポートランドのスローガン”Keep Portland Weird(変わり者でいよう)“

 日本から地理的に近い米国の西海岸エリアのなかで北西部オレゴン州の中心都市ポートランドは、ローカルに寄り添うライフスタイル、古いものを壊すのではなく生かそうとする考え方、クラフトビールやコーヒーカルチャーなどへのこだわりなど、ユニークな生活感が注目されてきた街だ。日本からの最短アクセスは、経由地シアトルから飛行機で約40分で着く。

 ポートランドは街の拡大化を推進するのではなく、車社会の米国では珍しく街中では公共交通を整備している。かつて街の中心にあったデパートの駐車場を拡大する代わりに、最終的には市民団体が資金を集めて1984年に「パイオニアコートハウススクエア」という広場を造った。この際には、広場のレンガ5万個に名前を刻んで資金を捻出し、そのレンガが今も広場に残っている。

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街の中心ある広場「パイオニアコートハウススクエア」は、ポートランドの象徴の一つ。ⒸJustin Katigbak, Travel Portland

 こういったポートランド市による政策や住民意識などを自治体や都市開発関連企業が視察する需要が高いが、さらに最初に挙げたようなローカルやスモールビジネスを街が育てるといった側面は生活産業系の企業にも参考になる。ポートランド観光協会によると、コロナ禍で一時は中断してしまった多様な視察目的でポートランドを訪問する人がじょじょに戻って来ているという。12月も東京からリノベーション会社の11名が街やホテルのブランドデザインやコミュニティ機能づくり、サスティナブルな取組みを視察するために訪れた。

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12月にポートランドを訪れたリノベーション会社の一行。バスを利用してホテルを回った。

 現地ツアー会社のKANEMASU LLC代表の中田理恵氏は「ポートランドの視察で訪れる人は、要望がニッチだが深く、そこでファンになればリピーターになりやすい。そんな目的意識を持ってきてもらい、ニーズとマッチするツアーを見積もり含めてスピード感をもって提供することが大事」だという。ポートランドに視察に来てもらうために着目する点をいくつか挙げてもらった。

●スモールビジネス・起業家:ガレージでのモノ作りからはじめて起業するといったスモールビジネスの事例を見てもらう。こういった人たちは大企業にないエネルギーもあって、日本の誰かと組んでやってみたいという意欲もある。実際にコラボレーションが実った例も。
●行政や住民意識:オレゴン州には政府を放棄せよというぐらいの主権的意識と仕組みがあり、路上パーキング増に対し住民専用ゾーニングを作る取組みをするなど、市民参加の事例を見れる。非営利団体も多い。
●ボランティアイズム:視察に高齢者にランチを配布する半日ボランティアを取り入れて体験してもらったこともある。ボランティアのためのコーディーネションなどを学ぶ。
●空き家対策:築古の空き家などをどう生かすかは、日本地方がよく抱える問題でもある。統合でなくなった小学校や教会をホテルやパブに転用するなどユニークな例も。
●助けいや動物保護:他州のシェルターから保護犬を受け入れている。これも動物保護への住民意識の高さから来ている、助け合いやコミュニティづくりの例も多い。

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廃校をホテルとブルワリーパブとして再生した「ケネディ スクール ホテル」。

 ポートランドも米国の中心都市が抱えるコロナによるビジネスのダメージや経済格差などからくるホームレス問題などはやはりある。中田氏は「安全性は最重要。その上で、実際のさまざまな住民による運営事例などに直接触れてもらえる視察ツアーを提案していきたい」と意欲を語った。



取材・文 小野アムスデン道子