国土交通大臣 斉藤鉄夫氏

  • 2024年1月8日

①国民の安全・安心の確保

(東日本大震災からの復興・再生)
 観光関係では、福島県に対し、観光復興に向けた滞在コンテンツの充実・強化、受入環境の整備等の取組を総合的に支援するとともに、ALPS処理水の海洋放出による風評への対策として、岩手県・宮城県・福島県・茨城県の沿岸部に対し、ブルーツーリズムの推進に関する支援を行ってまいります。

(輸送の安全の確保)
 令和4年4月に、北海道知床において小型旅客船が沈没し、乗客乗員計26名が死亡・行方不明となる重大な事故が発生しました。改めて、お亡くなりになられた方々とその御家族の皆様方に対し、心よりお悔やみを申し上げるとともに、今回の事故に遭遇された皆様とその御家族に重ねて心よりお見舞い申し上げます。国土交通省では、事故発生以来、海上保安庁の巡視船艇・航空機による捜索に加え、北海道警察や斜里町などの関係機関等と連携し、潜水士等による海岸部の捜索を実施してきました。また、釧路航空基地へ機動救難士を新たに配置するとともに、オホーツク海域に面する網走海上保安署への大型巡視船の配備により、北海道東部海域の救助・救急体制の更なる強化を図ったところです。今回の事故を受けて設置した「知床遊覧船事故対策検討委員会」において取りまとめられた「旅客船の総合的な安全・安心対策」について速やかに実施・遵守するとともに、事業者の安全管理体制の強化や船員の資質の向上などを内容とした関係法律の改正を行い、さらに、運輸安全委員会による最終報告書を踏まえ、改めて、旅客船をはじめとする輸送の安全確保に気を引き締めてあたるよう指示しました。引き続き、皆様に安心して利用いただけるよう、安全・安心対策に万全を期してまいります。

 このほか、各モードにおける輸送の安全を確保するための取組として、昨年3月に見直しを行った運輸安全マネジメント評価の基本方針に基づき、小型旅客船事業者に対する取組の強化も含め、各モードの運輸事業者の安全管理体制を一層向上させることにより、輸送の安全の確保に取り組んでまいります。

②持続的な経済成長の実現

(原油価格・物価高騰等への対応)
 令和3年から続く燃料油価格の高騰により、鉄道、トラック、バス、タクシー、内航海運、航空、倉庫等の交通・物流業界を取り巻く経営環境は、厳しい状況にあります。このため、政府として、令和4年1月下旬から、燃料油価格の激変緩和事業を実施するとともに、国土交通省においても、タクシーの燃料であるLPガスについて、燃料油価格の激変緩和事業に準じた支援を行い、これらの事業の延長・拡充等を図ってまいりました。昨年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」において、これらの激変緩和措置を令和6年4月末まで講じることが盛り込まれており、引き続き、経営に大きな影響を受けている公共交通・物流事業者を支援することとしています。あわせて、トラック運送事業、内航海運業及び倉庫業において、燃料等の価格上昇分を反映した適正な運賃・料金を収受できるようにするための荷主等への周知や、法令に基づく働きかけ等を実施してまいります。

(持続可能な産業の実現)
 持続可能な産業の実現に向け、各分野の担い手確保・育成や生産性向上に取り組みます。

 まず、バス・タクシーの担い手確保や経営力強化に向け、早期の賃上げ、安全・快適で働きやすい職場環境づくり、人材確保・養成の取組、経営効率化に向けた投資への支援等を引き続き推進してまいります。また、昨年12月のデジタル行財政改革会議においては、地域交通の担い手不足や、移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応するため、タクシーの規制緩和、地域の自家用車や一般ドライバーの活用といった施策を打ち出しました。この中で、都市部を含め、移動の不便への対応が喫緊の課題となっている現状を踏まえ、移動の足の不足を、地域の自家用車や一般ドライバーを活かすことにより補うこととし、すみやかに、タクシー事業者の管理の下での新たな仕組みを創設し、来年度(本年4月)から開始するという方針を決定しました。来年度に向け、早急に、制度の詳細を詰め、実効性のある仕組みとしてまいります。

 航空分野においては、空港での地上支援業務(グランドハンドリング)や維持管理業務の省力化・効率化のため、先進技術の導入に向けた取組等を官民で連携して取り組んでまいります。

(持続可能な観光の推進)
 観光は、人口減少が進む我が国にとって成長戦略の柱、地域活性化の切り札として期待されている重要な分野です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により深刻な影響を受けましたが、令和4年10月の水際対策緩和及び全国旅行支援の開始等の効果もあり、昨年は新型コロナからの復活から持続可能な観光の実現に向けて、大きく歩みを進めた1年となりました。昨年策定した観光立国推進基本計画や「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を踏まえて、本年は「持続可能な観光地域づくり」、「地方を中心としたインバウンド誘客」、「国内交流拡大」の3つの分野の取組を強力に推進していきます。

 第1に、持続可能な観光地域づくりです。国内外の観光需要が着実に回復してきた一方で、一部の地域や時間帯においては、過度の混雑やマナー違反による地域住民への影響や、旅行者の満足度低下などへの懸念が生じています。こうした状況を踏まえ、観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客の促進、地域住民と協働した観光振興に、引き続き取り組んでまいります。また、観光産業においては、観光需要の回復に伴い人手不足が深刻化していることから、外国人材の活用も含めた採用活動支援や、業務の効率化・省力化に資する設備投資への支援などの総合的な人手不足対策を実施し、人手不足の解消に向けて、しっかりと取り組んでまいります。さらに、観光地・観光産業の「稼ぐ力」を回復・強化するため、宿泊施設、観光施設の改修等を計画的・継続的に支援し、観光地・観光産業の再生高付加価値化を促進してまいります。

 第2に、地方を中心としたインバウンド誘客です。訪日外国人旅行者数は着実に回復していますが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られるところです。今後、地方部への誘客をより一層強力に推進し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んでいくため、自然、文化、食、スポーツ等の観光資源を活用し、全国各地でこれまでにないインバウンド需要を創出する、特別な体験の提供等によるインバウンド観光消費の拡大・質の向上や、地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツの磨き上げに取り組んでまいります。また、高付加価値旅行者の地方への誘客を強化するため、11のモデル地域において、高付加価値旅行者を惹きつける商材の作成やコンテンツの創出等を支援する、地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり等を実施してまいります。さらに、大阪・関西万博開催も見据え、アウトバウンドを含む双方向交流拡大に向けたプロモーション強化に取り組んでまいります。

 第3に、国内交流拡大です。近年の働き方や住まいのニーズの多様化等を踏まえ、テレワークを活用したワーケーションの推進や、反復継続した来訪を促進するための「第2のふるさとづくり」、ユニバーサルツーリズムといった国内における新たな交流市場の開拓に、従来の取組をさらに進化させて取り組んでまいります。

 国土交通省としては、引き続き、観光地の高付加価値化や住民生活との調和による持続可能な観光地域づくり、地方を中心としたインバウンド誘客、国内交流拡大をより一層推進してまいります。

(各分野における観光関係施策)
 昨年3月、コロナ禍で停止していた我が国での国際クルーズの運航を本格的に再開し、令和5年の寄港回数はコロナ前ピークの約6割まで回復しました。引き続き、各地域の皆様と連携し、クルーズ船の受入環境整備や寄港促進に向けた取組、地域経済効果を最大化させるための取組、地方誘客促進に向けた取組を推進し、経済の活性化や賑わいの創出に努めてまいります。

 景観計画や歴史的風致維持向上計画の策定を促進し、良好な景観を形成するとともに、地方公共団体が取り組む地域固有の歴史・文化・風土を活かした歴史まちづくりに対する支援を引き続き進めてまいります。

 「道の駅」は制度創設から30年が経過しました。地方創生・観光を加速する拠点へと「道の駅」の進化を目指すモデルプロジェクトの実施や、施設の老朽化対策等の全国的な課題に対する支援、防災拠点機能の強化などを進めてまいります。

 令和3年に閣議決定された、「第2次自転車活用推進計画」に基づき、私が本部長をつとめる自転車活用推進本部を中心に、政府一体となって、自転車通行空間の計画的な整備、シェアサイクルやサイクルトレイン等の普及促進、ナショナルサイクルルート等を活かしたサイクルツーリズムの推進等、自転車の活用の推進に向けて取り組んでまいります。

 鉄道分野をはじめとした交通機関において、訪日外国人旅行者にもより快適に利用していただくため、多言語による案内表示・案内放送の充実、トイレの洋式化、クレジットカード対応型券売機や交通系ICカード等の利用環境整備、大型荷物置き場の設置等の取組を進めてまいります。

(IRの整備)
 IRは、多くの観光客を呼び込む滞在型観光の拠点であり、観光立国の実現に向けて取り組むべき重要な施策の一つです。昨年4月には大阪の区域整備計画について認定を行い、9月には実施協定を認可しましたが、依存症などの弊害防止対策に万全を期すとともに、IR整備法に基づき、必要な施策を進めてまいります。

(航空ネットワークの維持・確保等)
 世界規模での新型コロナウイルス感染症から航空旅客需要は回復しつつあるものの、その事業環境の構造的な変化により、特に地方路線の収支が厳しい状況にあります。

 航空ネットワークは、公共交通として国民の社会経済活動を支えるとともに、インバウンドの受入れをはじめ、ポストコロナの成長戦略にも不可欠な「空のインフラ」です。地方創生や観光立国の実現に不可欠である航空ネットワーク維持・活性化のため、来年度の当初予算等の成立を前提に、航空機燃料税の軽減措置に加え、100億円規模での空港使用料の軽減等を行うこととしています。

 また、ポストコロナにおける急速な航空需要の回復・増加に対応するため、昨年11月に成立した補正予算等を活用し、グランドハンドリングや保安検査をはじめとする空港業務の処遇改善や人材確保・育成等を支援するなど、引き続き、受入環境整備を推進してまいります。

(戦略的・計画的な社会資本整備)
 航空分野においては、首都圏空港における年間発着容量約100万回の実現を目指し、必要な取組を進めてまいります。具体的には、成田空港については、第三滑走路の整備等に向けて、地域との共生・共栄の考え方の下、機能強化の実現に最大限取り組んでまいります。羽田空港については、2020年3月から新飛行経路の運用を開始しており、引き続き、騒音・落下物対策や新飛行経路の固定化回避に向けた取組、丁寧な情報提供を行ってまいります。また、拠点空港としての機能拡充に向けて、羽田空港アクセス鉄道の整備等を進めてまいります。近畿圏空港については、関西空港の容量拡張等に向け、飛行経路の見直し等に関し、地元自治体等の関係者と連携するなど、2025年大阪・関西万博等に向けた機能強化を推進してまいります。地方空港については、福岡空港の滑走路増設事業、北九州空港の滑走路延長事業、那覇空港の国際線ターミナル地域の機能強化、新千歳空港の誘導路複線化事業などを推進し、ゲートウェイ機能の強化を図ってまいります。

(国土交通分野におけるGXの推進)
 近年、気候変動の影響により、自然災害が激甚化・頻発化するなど、地球温暖化対策は世界的に喫緊の課題となっており、我が国においては、2050年カーボンニュートラルを目標として、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現に政府を挙げて取り組んでいるところです。地域のくらしや経済を支える幅広い分野を担っている国土交通省としても、民生・運輸部門の脱炭素化等に貢献するため、住宅・建築物や公共交通・物流等における省エネ化、インフラを活用した太陽光や水力、バイオマス等の再エネの導入・利用拡大(創エネ)、輸送・インフラ分野における非化石化等を推進してまいります。

 さらに、カーボンニュートラルに加え、「生物多様性の損失を止め、反転させる」ネイチャーポジティブに資する取組も大変重要です。昨年9月に策定した「グリーンインフラ推進戦略2023」に基づき、社会資本整備やまちづくり等において自然環境の機能を活用するグリーンインフラの取組を官民連携によってあらゆる分野・場面にビルトインすることを目指し、民間投資の促進等を通じて自然豊かな都市空間づくりを目指すまちづくりGXや都市公園整備、住宅・建築物・道路空間・低未利用地等の緑化、自然環境の機能を活用した流域治水等を推進してまいります。

 航空分野においては、航空法等に基づく「航空運送事業脱炭素化推進計画」及び「空港脱炭素化推進計画」の認定を進めており、昨年12月に成田、中部、関西、大阪国際空港の4空港の計画を初認定しました。また、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、空港の再エネ拠点化等に取り組んでまいります。

(2025年の大阪・関西万博、2027年国際園芸博覧会の開催に向けた取組)
 2025年の大阪・関西万博に向け、万博に関連するインフラ整備や、空飛ぶクルマの実現など「未来社会の実験場」の具体化に向けた取組を関係省庁や地元自治体等と連携して進めてまいります。

 2027年国際園芸博覧会について、昨年、関係閣僚会議において、政府として取り組むべき対策の「基本方針」及び「関連事業計画」が決定されました。これらに基づき、政府一丸となって本博覧会の開催に向けて取り組むとともに、博覧会協会、関係省庁、地元自治体及び経済界と連携し、着実に開催準備を進めてまいります。

③個性をいかした地域づくりと分散型国づくり

(活力ある地方創り)
 奄美群島や小笠原諸島をはじめとする離島や半島地域、豪雪地帯など、生活条件が厳しい地域や北方領土隣接地域に対しては、引き続き、生活環境の整備や地域産業の振興等の支援を行ってまいります。

 「ウポポイ」については、多くの方々にアイヌ文化の素晴らしさや民族共生の理念に共感していただけるよう、効果的な誘客施策について有識者検討会で議論を進めていただいており、この結果を踏まえて取り組んでまいります。

 令和元年10月の火災により焼失した首里城は、沖縄の誇りであるとともに、国民的な歴史・文化遺産として極めて重要な建造物です。復元整備工事中の首里城正殿は、令和8年秋に完成予定であり、国土交通省としても、引き続き、一日も早い復元に向けて、沖縄県や関係省庁と連携し、全力で取り組んでまいります。

さいごに

 本年も国土交通省の強みである現場力・総合力を活かして、国土交通行政における諸課題に全力で取り組んでまいります。国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとりまして希望に満ちた、発展の年になりますことを心から祈念いたします。

※一部抜粋