共通プラットフォームの進捗は?レジリエンスとデータベースで何が変わる?-JATA経営フォーラム

旅行業・宿泊業の負担軽減と業務効率化へ
大規模なプラットフォーム化に向け、参画するメリットも必要

データベースで最新情報を即座に取得、情報の利活用で旅行会社の存在感を

日本旅行ツーリズム事業本部国内旅行事業部担当部長の廣谷良氏

 観光関連施設情報データベース機能については、永山氏が現状の課題として情報提供先の多さを挙げた。同社の場合、例えば総客室数が変化したとすると、旅行会社やバス会社、商工会議所など約2000件に数年にわたり連絡する必要があるという。また、例えば画像を送る場合、情報提供先により画像のサイズなどが異なるため担当者が苦労することも多く、こうした業務の効率化にプラットフォームは有用との考えだ。

 さらに、永山氏はインターネット上に新旧の情報が入り混じっており、旅館の現状と似ても似つかない内容を掲載しているウェブサイトがあるとし「情報の確実性がなくなってしまっていることに繋がる。最新情報はここ見れば間違いない、というプラットフォームができるのは、我々も確実かつ最新情報はこれ、と断言できるのでありがたい」と話した。

 旅行会社の立場からは、廣谷氏が数千件の契約施設と情報更新をやり取りするなか、最新の情報が現場に伝わらないこともある旨を説明。そのため現地を訪れた旅行者から「条件と違う」とクレームが出ることもあるとし、「旅行会社と施設の信頼度を失っていることもあるのでは。プラットフォームができ、情報管理が一括で正確なものが伝えていけるのであれば大いに期待したい」と語った。

 一方で、「情報基盤を実現させるには大多数の宿泊施設や旅行会社が参画することが一番」と強調。情報のメンテナンスをしっかりすることも重要であると指摘した。これに対し永山氏も「情報が常に最新の状態で掲載されていることを宿泊施設が担保しないと活用してもらえない」と話し、「プラットフォームが信用してもらえるようになれば、ここにだけ新しい情報をアップすれば世の中に広がるという自信にもなる。そのあたりをうまくかみ合わせながら進んでいくことが大事」と強調した。

 香川氏は「変化が激しいので最新情報の取得が受け身になりがち。社内に情報をためるところはあるが、新旧が混在している」と語り、社内の情報が信用できないと考えた担当者が宿泊施設に電話をかけて情報を今一度確認し、結果として施設に負担かけたこともあると振り返った。その上でプラットフォームができれば情報取得の利便性、効率性が格段に上がるとし、「現在は旅行会社の実態により定量情報の把握はある程度差がある。その現状が解消されていくメリットはあるのでは」とコメント。その上で得た情報の活用が重要であるとし、「活用が進めば進むほど事業者にとって事業拡大や振興にメリットを生かせる」と話した。

業界統一の番号を設定して効率化を、認証制度の提案も

 2つの柱以外の要望としては、永山氏が事業者番号を業界統一のものにして利便性を高めていくことを提案。現在は旅行会社や宿泊業界団体ごとに異なっているが、「インボイス対応の話もあったが、下電ホテルは世界で一つこの番号を指し、そこの最新情報はこれ、と紐づくと、世界中に発信する情報が整っていくのでは」と期待感を述べた。加えて観光庁や旅行会社からのアンケートに回答する際も、法人名や住所、代表者など手書きで書く手間が省けるとして、「今の提出の負担が減ると思う。その時間があればお客様の対応にあてさせてもらいたい」と話した。

 さらに、永山氏は「情報の迅速性と確実性はあったが、速さではSNSにはかなわない」としながらも、「業界が力を合わせると、それが正しいかどうかをしっかり判断してお客様に伝え直せる。その機能は内部でなければできない」とプラットフォームの意義を改めて強調した。

 廣谷氏はインバウンドを意識した多言語化の必要性にも言及。加えてプラットフォーム参画者へのメリットがあれば参加しやすくなるとの考えを示し、マークを作り認証制度のような形で参画者に付加価値をつけることを提案した。

 香川氏はプラットフォームの機能の充実のために、交通業界など他業界の参画を促すことを提案。「交通機関のマヒ情報や道路封鎖情報といった情報を把握できるようになるのが望ましい」と話した。その上でプラットフォームの取り組みにより「宿泊・交通・観光施設・旅行会社の連携が強化されていく1つの契機として、この機能が運用されることにつながれば」と期待を語った。

JTB総合研究所コンサルティング事業部ツーリズム戦略部長の濱中茂氏

 最後に司会の濱中氏が取りまとめを実施。JATAでは過去にも共通プラットフォームのような取り組みがあったが「総論賛成各論反対で実現に至らなかったと聞いている」とし、「コロナの厳しい中でこそ協調/共創を掲げ、再生に向けて進んでいる今を逃してはプラットフォームの構築はなしえない」とコメント。プラットフォーム構築で業務改善・効率化や生産性の向上、コストの抑制につながるとし、「観光業がお客様から安心・安全のベースで信頼を得て旧態依然の仕組みから脱し、社員が意欲的に働けるようにすることで、旅行業で働きたいという産業の活性化につながるのでは」とプラットフォームの重要性を改めて強調した。

 また、インターネットで自由に情報収集ができる中、旅行会社が情報を利活用することにもっと時間を費やすべきと主張。宿泊事業者に対しては、プラットフォーム構築による業務効率化で得た時間について「お客様に向けることに期待するとともに、旅行会社と柔らかい会話をすることでアイデア創出や、事務的会話にとどまらない関係の構築にもつながるのでは」と期待を示した。