あらためてキホン「衛生要因・動機付け要因」から考えるホテルの離職問題-リクラボ 久保亮吾氏
ホテル業界専門の人材会社リクラボの久保亮吾です。宿泊産業の人材市場をとりまくトピックについて書いています。加速する人材不足から、宿泊産業の現場からは悲鳴があがっています。年末年始の高稼働期、ホテルの朝食会場などでは完全にオペレーションが破綻してしまった現場もあったと聞きます。余裕のない仕事環境はスタッフのみなさんの心身を削り、さらなる離職の要因となります。2023年は人材の問題を真剣に考える年。さらには(特に人手に頼ってきた産業において)ビジネススキームを根本から見直す年になる気がしています。
本気で「衛生要因」を改善できるか
前回、私がトラベルビジョンに記事を書いた時もそうだったのですが、毎度「ホテル業界における人材採用対策」的なことを書くと、「そもそも宿泊産業は給料が安すぎるからダメなんだ!」というコメントを多数頂戴します。はっきり言って「まったく、おっしゃる通り!」と私も思っています。以前から宿泊産業は平均年収の低い産業と言われていましたが、昨今、他産業の年収が上がっているにも関わらずこの産業の給与が足踏みしているので、どんどん置いてけぼりを食っている感があります。これでは若い人たちも未来への夢を描けず、中堅は家族を養えず、止むを得ずどんどん別の産業に逃げてしまいます。10人を新規採用している間に15人の既存社員が辞めてしまっていては焼け石に水ですよね。
人事の世界では古典の理論ですが、臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによると、「人間が感じる仕事上の満足度とは、特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるのではない。そもそも満足につながる要因と、不満足を引き起こす要因はそれぞれ別だ」というのです。これが有名な「衛生要因・動機付け要因」の理論(2要因理論とも言います)です。
衛生要因 | 動機付け要因 | |
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衛生要因・動機付け要因のどちらの要因についても改善策を考えていくことは大事なのですが、それぞれを区別して考えることが重要かと思います。宿泊産業の離職問題について有識者が集まって議論すると、気がつけば右側の動機付け要因の改善について語ってばかりいるように思うことがあるからです。例えば
- ・評価制度を見直して新しい視点でスタッフの成果を見ていこう
- ・トップの方針を若手まで共有できるよう目標や計画をガラス張りに開示しよう
- ・人材育成に重点を起き、研修制度をブラッシュアップしよう
- ・部門間異動を個人の意見を尊重して実施し、チャレンジできる風土を高めよう
などなどです。これらは動機付け要因に関連する項目です。もちろん、これらを考えることは良い組織を作る上で大変重要です。しかし、昨今の行き詰まった状況においては “逆にもっと低次元なレベルを注視しなければならない”のではないかと、私は危惧しています。つまり、
- ・そもそも給与が安すぎて生活ができない!(若い人は一人暮らしすると完全に月々の収支が赤字。子育て世代は子供にかけられるお金が完全に不足、など)
- ・対人関係がとても悪く、精神を病む人が多い(あまりに忙しすぎて現場がギスギスしている。新人が入ってきても誰も教えられない。社員同士のケアや気遣いもまったくない)
- ・スタッフが少なすぎて休憩がとれない!
- ・休日出勤しないとシフトがまわらず、体を壊す人が多い
などなどのことが皆さんの現場でも起きていないでしょうか?