宿泊事業者の「便乗値上げ」説への反論~更なる単価アップをすべき理由 宿屋大学 近藤寛和氏

  • 2022年11月10日

 10月11日から始まった「全国旅行支援」のあと、ホテル・旅館の宿泊料金が高騰したことを受けて、「便乗値上げだ」と批判する意見が目立ちました。国土交通大臣からも、「便乗値上げが確認された場合は厳正に対処していきたい」といった発言がありました。こうした意見を聞き少し腹立たしく感じた宿泊事業者さんも多いのではないでしょうか。

 私もその1人です。なぜならこういう考えを持って無責任に意見を発する人がいたとしたら業界の内情をご存知ないのではないかと感じたからです。需要が跳ね上がるタイミングに、通常料金の10倍もの価格で通常と同じ部屋を販売するホテル企業さんの方針は「不当」と言われても仕方ないと感じますが、ほとんどのホテル・旅館は、真っ当な経営をされているし、むしろ「便乗値上げのチャンス!」だと、私は考えています。今回は、「便乗値上げだ」という意見への反論と共に、「ホテル・旅館は、もっともっと単価アップしていくべき」という考えを述べたいと思います。

「便乗値上げだ」という意見への反論 4つの理由

 私は、「便乗値上げだ」という意見には強く反論したいし、もっと値上げすべきだと思っていますが、その理由はちょっと考えただけでもすぐにいくつもの理由が挙がります。

(1)そもそも、日本のホテルは、海外と比べて相対的に安過ぎる

 私や業界関係者の肌感覚の数値で恐縮ですが、欧米などの先進国に比べ日本のホテルの宿泊料金は、2/3くらいです。つまり、アメリカで3万円のクオリティのホテルに日本では2万円で泊まれる感覚です。円安のいまなら1/2くらいの開きができているといっても過言ではないでしょう。

(2)スタッフの給料が現状安過ぎて離職、そして他産業に行かれてしまう

 周知の事実ですが、宿泊業界の賃金は全産業平均に比べて安いのです。ここを高めないと人材流出は治まりません。コロナ禍の2年間で業界の雇用者はなんと15%も減っているのです。ある人材エージェントによると「ホテル業界は、他業界の人材採用の狩場になっている」そうです。また、新規採用しようにも、賃金を上げないと集まらないのです。しかも、今後も日本国中に多くのラグジュアリーホテルが開業します。業界人が減っているのに、ますます必要になる。ホテル・旅館は、価格を上げて売上を得て、スタッフの待遇を良くしていかなければ、もう成り立たないのです。待ったなしの大ピンチなのです。

(3)モノやエネルギーコストが高騰

 インフレや円安によって、ホテル・旅館で消費するエネルギーコストや食材原価なども高騰しています。そのコストを価格に転嫁するのは当たり前ではないでしょうか。

(4)いまや、ホテルや旅館というキャパシティビジネスは、需給バランスで価格が変動するのは常識

 コロナ禍においては、ホテル・旅館は、信じられないくらい激安で販売していました。正常なタイミングに比べたら、今秋の価格の高騰よりも、コロナ禍の激安のほうが異常なのです。個人的には、「価格は価値に従う。いつもより高く売るのであれば、価値も高めて売るべき」だと思っているものの、「需要が供給を上回る場合、価格は上がる」という経済原理の考え方も、多少はしょうがない判断だと思っています。

次ページ >>> 稼働を犠牲にしてでも単価を上げれば利益は増える