【弁護士に聞く】中小企業にも義務化、パワハラ防止措置とは何か

 略称「労働施策総合推進法」(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)は、4月1日から中小企業にもパワハラ防止措置を義務づけている(それまでは努力義務)。2019年5月の同法の改正により、大企業に2020年6月から職場におけるパワーハラスメントの防止が義務づけられたことにより、「パワハラ防止法」と俗称されるようになった。正式名称からわかるようにパワハラ防止措置に限らず、広範囲の労働施策につき定めている法律だ。

パワハラ防止措置とは何か?

 同法は第9章に「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」と題して、第30条の2から同条の8までの規定を設けている。この「・・言動に起因する問題」を「優越的言動問題」と呼んでいる、言い得て妙である。

 まず、同法第30条の2第1項は、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」としたうえで、同条第3項は、厚生労働大臣が「事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする」として、全てを厚労大臣の指針に委ねている。パワハラの「新種」がでてきたときにも法改正を要さず迅速に対応できるようにしたものである。

 指針の定める事業主の講ずべきパワハラ防止措置は、厚労省の発行しているリーフレットに簡潔にまとめられているので、以下に引用する。

事業主の方針等の明確化および周知・啓発(1)職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
(2)行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(3)相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
(4)相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応(5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
(6)速やかに被害者に対する配慮のための措置を適切に行うこと
(7)事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
(8)再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
併せて講ずべき措置(9)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
(10)相談したこと等を理由として解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること(不利益取り扱いは同法によって禁止されている)

 この表を一読すれば、中小企業がこれらの措置をとることは相当なエネルギーがいることがわかるだろう。特に、相談窓口担当者となる者は、(4)~(7)を実行するためには相当な知識と経験を必要とする。顧問弁護士・社会保険労務士がいるならば、フル回転で利用すべきである。

次ページ >>> パワハラの類型化も