無料相談から専門家派遣まで、観光事業者も活用したい中小機構の支援メニュー
ツーリズムEXPOジャパン2022の業界日には、専門領域プログラムとして「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」が開催された。そのなかから中小企業基盤整備機構(中小機構)が主催した中小企業経営層向けセミナーの模様を紹介する。
中小機構は中小企業や地域へのサービス提供を目的に2004年に設立された独立行政法人で、全国約3000名の専門家の登録があり、地方公共団体や商工会議所、金融機関とも連携して中小企業を複合的に支援する。「中小観光事業者向け経営支援のご紹介~中小機構の多岐に亘る支援事業と、旅行・観光事業者支援事例~」と銘打った本セミナーでは、コロナ禍の影響を受ける観光関連事業者に向けた支援が紹介された。
観光事業者も利用できる支援メニュー
中小機構では無料の支援メニューを複数提供しており、主なものに「経営相談」「事業再構築アドバイス」「IT経営簡易診断」がある。経営相談ではWeb、電話、メール等で気軽に専門家に相談できるほか、これまでの相談データや知識データを活用しAIチャットボットが対応する「E-SODAN」のサービスも用意している。「事業再構築アドバイス」では、新規事業展開や事業転換を始めようとする事業者が、最大3回まで専門家のアドバイスを受けることができる。「IT経営簡易診断」では、専門家との3回の面談を通じて経営課題を可視化し、各社に合う形でのIT活用の可能性を提案する。このほか、商品開発や販路開拓のアドバイスを45分で行う「虎ノ門オンラインアドバイス」も開催している。
有料支援としては専門家を派遣して経営課題の解決を図る「ハンズオン支援事業」が紹介された。最大で10ヶ月程度となる長期的な支援で、企業側でも社内にプロジェクトチームを設置し、主体的に課題解決に取り組むことで、支援終了後も継続して成長・発展できる仕組みを構築することを目指す。企業のニーズに合わせ、全体的な課題をじっくりと解決する「専門家継続派遣事業」、IT化を進めたい企業向けの「戦略的CIO育成支援事業(CIO-A型)」「戦略的CIO育成支援事業(CIO-B型)」、特定の課題に短期間で取り組む「経営実務支援事業」の4種類のメニューがある。
旅行・観光関連の支援事例
中小機構関東本部では、2018年より観光事業者の本格的な支援を開始した。中小機構関東本部で観光のアドバイザーを務める川端祥司氏によると、これまでの支援対象は飲食業や宿泊業、協同組合など、新たに観光に力を入れていきたいという事業者が多く、内容としてはインバウンドへのターゲティングや情報発信、販路の紹介に関する相談が多いという。セミナーではこうした相談に対する実際の支援事例が紹介された。
◆あきる野 飲食業
観光資源である「あじさい山」を活用した地域振興を目指す。将来的にはインバウンドの集客も視野に入れ、ターゲティングやプロモーションを相談。地元の物産を使用したお土産開発も希望。
- ⇒専門家派遣制度を活用し、商品開発および情報発信の専門家を派遣してそれぞれの課題を解決。現在は都心から1時間ほどでアクセスできる自然あふれるエリアとして、あきる野を中心に奥多摩エリアを面で捉えた観光商品の開発も進めている。
◆藤沢・小田原の結婚プロデュース業
旅行業の資格を持ったウエディングプランナーが在籍する企業で、湘南の観光コンテンツとウエディングを合わせた商品開発を希望。
- ⇒SNS活用の情報発信と外国語版のホームページ制作に専門家を派遣。LINE、Facebook、Googleビジネスプロフィール(GBP)の利用推進を行った結果、関西や九州など首都圏以外からも問い合わせが増加した。
◆山梨 古民家レストラン
有名ホテル出身のシェフが腕を振るうフレンチレストランだが、認知度の低さが課題。
- ⇒GBPの活用を紹介し、Googleマップへの情報更新頻度をアドバイスした結果、半年で集客増。またコロナ禍以降は1日2組に限定して営業していたため、ターゲットを富裕層に絞るアドバイスを行い、富裕層を専門とする旅行会社を紹介して旅行商品を造成。葡萄農園と連携したワインツーリズムも企画、商品化した。
◆千葉 日本酒の蔵元
コロナ禍で国内の飲食店やホテルでの消費が激減。海外への販路開拓を希望。
- ⇒台湾、香港、シンガポール、アメリカ、オーストラリアなどのディストリビューターや、コロナ禍を機に富裕層向けに日本の高級食材の販売を始めた旅行会社を紹介。また、建物が重要文化財に指定されていることを活かし、地元自治体を巻き込んだ旅行商品の開発を進めている。
◆箱根 大手チェーン宿泊業
これまではターゲット設定をせずとも安価な露天風呂付き客室を目当てに外国人観光客が多数訪れていたが、コロナ禍での需要減を受けターゲティングを相談。
- ⇒海外客に対するターゲットの明確化とプロモーションをアドバイスし、海外の旅行会社や国内の外国人富裕層専門の旅行会社を紹介。海外の人気ブロガーも招請し、ブログで紹介してもらえるようやり取りのポイントもアドバイスした。
川端氏は「国内外の旅行会社と情報交換していると、ウィズ・アフターコロナの観光のキーワードは『Nature』と『Wellness』の2つだと言われる。日本の地方にはどこにでもあるものなので、いかに磨き上げてコンテンツにできるかが勝負。地元にいるとすべてが当たり前になり、気づかないコンテンツも多い。外の人からの意見を聞きながら観光コンテンツを洗い出し、ブラッシュアップしていただきたい」と締めくくった。