海洋国・日本の海辺の魅力を世界に発信-シークルーズ代表取締役 瀬崎公介氏

  • 2022年10月11日

「水辺」を軸とした多角経営
インバウンド誘客にはSNSを活用

-経営の多角化という発想は、地震や水害など過去に自然災害で受けた被害から得た教訓が反映されているのでしょうか。

瀬崎 ボート免許教室はレジャー需要だけでなく漁師や船員等の業務用需要もあり、5年ごとに免許更新もあるので一定の需要が見込めます。マリーナ事業も船を預けてもらえれば、よほどのことがない限り顧客であり続けてくれますから安定した数字が見込めます。その反面、人口の減少傾向のなかでボートの免許取得者の増加は期待できません。マリーナも敷地面積に限りがありビジネスの拡大は困難です。

 ところが観光事業は順調に回り始めれば市場が世界に広がっており、大きな伸びしろが見込めます。そういった事業ごとの特性を組み合せる発想は先代の父親からも受け継ぎました。

 また熊本県で相次いだ地震や水害の経験が役だった面が確かにあります。たとえばコロナ禍では1年目にGo Toトラベルがあり、一時期需要が急回復しました。これは、それまでの災害の経験から想定済みで、その準備を進められたので効率よくキャンペーンを活かせました。というのも地震や水害の後、人々は旅行を思い止まるしかないわけですが3ヶ月が限界で、それを超えると需要が一気に回復し始める経験をしてきました。また行政が何らかの需要回復キャンペーンを打つことも経験済みで想定の範囲内だったので、Go Toにも素早く対応できました。ただし天災からの復興が右肩上がりなのに対し、コロナ禍は波が来ては引くの繰り返しだったのが大きく違いました。

-遊覧船と定期航路の販路別の販売比率を教えてください。

瀬崎 コロナ禍前の遊覧船は直販70%、旅行会社・OTAなどのエージェント経由が30%。定期航路は直販が80%でエージェントが20%。個人旅客が主対象で、インバウンドも韓国、台湾、中国のツアー客・団体客はほとんどいませんでした。コロナ禍によってエージェント経由がさらに減少し、直販比率が80%から90%まで上がりました。例外は教育旅行で、こちらは目的地が海外や沖縄からシフトしたため、旅行会社経由の教育旅行の団体需要が増えました。

-遊覧船の価格設定が他社より高く感じますが、戦略的な設定ですか。
イルカウォッチング

瀬崎 私が入社した2000年代初めの数年間は当社も価格競争に巻き込まれ厳しい状況でした。当初は1人4500円としていたのですが、違法業者まで入り乱れて値下げ競争が始まり、1人1500円で運航する事業者まで出現。対抗上、団体客は1人2500円まで値を下げましたが、これでは利益が出ません。ここに至って我に返り、路線転換しました。当時はガイドなしのイルカウォッチングが当たり前でしたが、業界で初めてイルカの調教学校の卒業生を新卒採用し、ガイドとして乗船させる体制を整え、エアコン・トイレ完備の大きな船に更新。しばらくすると価格は高くても「顧客の満足度が高い」「安いクルーズに乗せた顧客からはクレームが来る」と旅行会社からの要望がどんどん増えました。現在は売上シェアがナンバーワンです。人数ベースではもっと多い会社がありますが、単価が高い当社は売上ベースでは頭1つか2つ抜けています。

-今後インバウンドも復活が見込まれますが、どの市場に注力しますか。

瀬崎 政府は欧米豪の取り込みを進める施策を打ち出していますが、九州には欧米豪市場はまだ早い。直行便がないからです。インバウンドは成田や羽田、関空から入り、東京・京都・大阪というゴールデンルートが主体です。九州の当社は香港、台湾、シンガポール、タイなど東アジアや東南アジアの国々を中心に考えています。まずは確実に戻る気配がある地域に集中し、そのうちに中国が戻り、その後に欧米豪が増えれば理想的です。

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