ロンドナーが愛するジンとビール、「ビーフィーター」と「フラーズ」の工場見学へ

  • 2022年8月31日

 この夏はイギリスの観測史上初の40度を記録するほどの猛暑もあったロンドン。今も例年より暖かく、のどが乾いたらロンドン名物のパブでグイっと1杯。パブではビールはもちろん、ジンをベースにしたカクテルはイギリス人の大好物。最近はいわゆるクラフトビールやクラフトジンブームで醸造所や蒸留所ツアーは地元でも大人気。ただ、全般的にはパンデミック後は人手不足のせいか、まだ以前より少ない催行日、かつ人数も15-16名を限度にしている所がほとんどです。

 現在ロンドンには20か所以上のジン蒸留所、ビール醸造所は大小含め120か所ほどあるようですが、今回は知名度があり、かつ個人でも行きやすい所をそれぞれ紹介します。

 まずジンから。原料は穀物で作る純粋なアルコールとジュニパーベリー(西洋ねずの実)がベース。ヨーロッパでは11世紀頃から修道院で薬用酒として造られたのが始まり。その後イギリスでジンが本格的に普及したのは17世紀末、オランダ総督でもあったウィリアム3世とメアリー2世の共同統治時代。しかし製造を無許可にしたせいでピーク時は酒場以外の床屋やコーヒハウスでも飲まれ、粗悪品で命を落としたり犯罪も増加、女性や子供までジン中毒となるほどの大きな社会問題に。一旦は下火になるものの、18世紀末から再び上流階級の間で流行し、いまや国民的飲み物に。ジン自体はカロリーゼロなのでソーダ水などで割れば糖分なしというのも人気の一因。

ビーフィーター Beefeater London

 ロンドン塔を守る衛兵、ビーフィーターのラベルが目印。1820年チェルシー蒸留所として開業、1876年にビーフィータージンが誕生。以来世界で最も愛されるジンの1つとなり、数々の賞を受賞。1995年にカリスマ・ディスティラーのデズモンド・ペインを迎えクラフトジンの分野でも注目の老舗。日本茶をベースにしたジンもある。

地下鉄Vauxhalls駅から徒歩10分 ツアー所要時間1時間半/25ポンド
金曜~日曜 13時/15時/17時  ※土日は11時もあり

 日本の冷えてキリっとしたラガーも美味しいですが、イギリスのビールといえばやはりエール。ラガーより甘味とコクがあり、ぬるめの温度で炭酸もアルコールも弱め。最初は苦手でしたが、滞在が長くなるにつれ地ビールの美味しさに気づき、今では私もエールファンに。

 ビールの歴史はジンより更に古く、2000年以上前、ローマ以前のケルト時代からすでにビールが飲まれていたという説もあります。ロンドンのパブも、一時はラガーやピルスナーが流行しましたが、最近はまたエール人気が再燃。特に2000年以降は税制や法律が変わり、どんどん新しいクラフトビールメーカーが増えUK全土で現在は2200社以上。でもやはりロンドンの地ビールといえば200年近い歴史を誇るロンドンプライドが一押しです。

フラーズ Fuller’s

 西ロンドン、チズィックのテムズ川沿いに350年以上前からある醸造所。昔は材料の麦が船で運ばれ、湧き水で作られたビールはまた船で各地に運ばれるという重要な立地。有名な「ジン横丁とビール街」を描いたホガースの家と庭園はここから徒歩7分ほどの距離。幾度も経営が変わり19世紀半ば傾きかけたグリフィン醸造所を救った3人、フラー、スミス&ターナーが1845年に創業。以来、ビール造りだけでなくロンドンとイングランド南部を中心に380軒以上のパブとホテルを経営。2019年から醸造部門のみ日本のアサヒビールに売却。しかしビール造りは一切変更せず、これまで通りの製法を守っています。

地下鉄Turnham Greenから徒歩15分 ツアー所要1時間半/25ポンド
火曜~土曜 11時~15時 毎時出発 ※金曜は16時最終 ※日曜は13時~15時の3回

 以上いずれもツアーは英語のみですが、世界にたった1つの製造拠点、お酒に興味のある方、視察グループにもにおすすめです。(ロンドン在住 スウィグラー久美子)

※写真をクリックすると詳細キャプションが表示されます。

  • 【ビーフィーター】ショップ兼受付。700mlのボトル以外にも、缶入りジントニックやミニボトルも豊富でお土産にも便利。ストロベリーやブラックベリーのフレーバージンが人気

    【ビーフィーター】ショップ兼受付

  • 【ビーフィーター】最初の30分はジンやビーフィーター社の歴史の展示ギャラリーを各自見学という形式

    【ビーフィーター】展示ギャラリー

  • 【ビーフィーター】創業者のジェームス・バラ―が、チェルシーのジン蒸留所を400ポンドで購入したのが始まり。ペルノ・リカール社の傘下となった現在も、19世紀のレシピと彼の名付けたブランド名は健在

    【ビーフィーター】創業者のジェームス・バラ―

  • 【ビーフィーター】ウィリアム・ホガース作:ジン横丁(左)とビール街(右)。1750年に2枚セットで発行された版画。荒廃した町と人々を描いたジン横丁、健康的で裕福なビール街。いわゆる「ジン狂い」撲滅キャンペーンの目的で制作された作品

    【ビーフィーター】ウィリアム・ホガース作:ジン横丁(左)とビール街(右)

  • 【ビーフィーター】セルフツアー後、材料やフレーバーの説明、テイスティングと蒸留室の見学(通常は写真撮影不可)

    【ビーフィーター】材料やフレーバーの説明、テイスティングと蒸留室の見学

  • 【ビーフィーター】基本のジュニパー、アンジェリカ、セビリア・オレンジ、レモン他9種類の材料は1876年以来変わっていない

    【ビーフィーター】ジンの原材料

  • 【ビーフィーター】試飲はオリジナルのロンドンドライジン、ロンドンガーデン、煎茶と中国茶を使ったユニークなフレーバーのビーフィーター24、この蒸留所でしか買えない48度のマンデーズドライジンの4種類

    【ビーフィーター】試飲

  • 【ビーフィーター】最後はお楽しみ、オリジナルのドライジン&トニックを頂いて終了

    【ビーフィーター】オリジナルのドライジン&トニック

  • 【ビーフィーター】当日ショップでの買い物は10%割引。参加者はアルゼンチン、フランス、韓国、日本と客層もグローバル

    【ビーフィーター】アルゼンチン、フランス、韓国、日本と客層もグローバル

  • 【フラーズ】外観は19世紀のまま、歴史を感じさせるグリフィン醸造所(左)。ツアー集合場所はショップ

    【フラーズ】グリフィン醸造所(左)

  • 【フラーズ】ケグとカスクは樽の違いでステンレスのケグは冷たくて炭酸の多いラガーやIPA用。カスクは無濾過のリアルエールで樽の中で2次発酵する生きたビール

    【フラーズ】バー

  • 【フラーズ】店内の様子。フラーズ以外のビールやワイン、スピリッツやオリジナルグッズもある

    【フラーズ】ショップ

  • 【フラーズ】ツアーはほぼ製造工程通り。ビールの原料は基本、麦、水、ホップ、イーストの4つ

    【フラーズ】ビールの製造工程

  • 【フラーズ】麦をざっくりと潰すミルは19世紀の機械がまだ現役で活躍。1時間当たり赤は4000kg、青は3000kgキャパシティがある

    【フラーズ】麦を潰すミル

  •  【フラーズ】主な麦はペールエール、クリスタルライト、ウィートモルトなど

    【フラーズ】ビールの原材料の麦

  • 【フラーズ】1823年から1984年まで活躍したオールドコッパーという銅製の煮沸タンク。最初は石炭が使われていた。ミルやこのタンクなど産業革命時代の機械が見られるのは歴史あるフラーズならでは

    【フラーズ】銅製の煮沸タンク

  • 【フラーズ】もちろん現在は最新のテクノロジーで品質管理。ここで生産される80%のビールは生エールのロンドン・プライド、出来立てのビールがすぐに同社のパブに届く仕組み

    【フラーズ】最新テクノロジーでの品質管理

  • 【フラーズ】最後はセラーへ。ギャラリーの貴重な資料を眺めながらお楽しみの試飲

    【フラーズ】セラー

  • 【フラーズ】フラーズのビールは数々の賞を受賞。ここの試飲は特に種類は決まっておらず、沢山の種類を少しずつ試すこともできるのが嬉しい

    【フラーズ】試飲

  • 【フラーズ】少しアルコール度が高めですが熟成タイプのエールはお土産にも手頃。箱入りのヴィンテージエールは5年ー10年の長期熟成。古いものは20年以上のものも

    【フラーズ】熟成タイプのエールはお土産にも手頃