旅行業の「再生」へ5つの提言-JATA、リカバリーへ観光庁長官に要望も
「再生」へ5つの提言、業界内外で「協調と共創」など呼びかけ
こうした現状認識のもと定めた3つの基本方針が「旅行業の存在意義の確立と周知」「『旅行ビジネスを極める』『新たなビジネス領域への進出』の両面での進化の追求」「前例にとらわれない協調と共創の実践」で、その実現のためにJATAが提言したのは「業界のブランディング/広報の強化」「協調/共創」「デジタル原則」「人財確保/人財育成/人財活用」「レジリエンス」の5点。それぞれについて具体的な施策も例示した。
まず、ブランディングと広報の強化では、旅行業の存在意義を社会に周知すること、サステナビリティに正面から向き合うこと、「旅づくり」を極めて高付加価値化しつつ旅行業の知見やノウハウを生かして横展開することで事業基盤を強化することを提言。JATAとしても、セミナーの強化やSDGs表彰制度の新設、他組織との連携によるサステナブルツーリズムの振興などに取り組んでいく予定という。
続く「協調と共創」は髙橋氏が「提言の肝」と語るポイントで、「各社間の競合による個社最適から協調と共創による全体最適への意識転換」や「価格競争から価値共創への転換」を促す。JATAに所属する会員は多様で事業展開の方向性も必ずしも同一ではないものの、「非競争分野においては情報共有や相互連携などで協力し合う関係性の構築が必要」との考えだ。
一例として髙橋氏が挙げたのは業務用の宿泊情報システムで、「各社が多額のコストをかけて同じような宿泊施設情報や写真データの管理をしているが、顧客にとっての差別化にはつながらない。差別化につながらないようなシステムは大胆に共有することで、コストを大幅に圧縮し、限られた経営資源を価値創出に集中させるべき」と訴えた。JATAとしても、会社間のマッチング支援のあり方について検討を続け具体的な形にしていきたいという。また、地域やDMOなととの協調と共創についても重要性を指摘した。
3点目の「デジタル原則」は、個別企業でのDXによる利便性や業務効率の向上に加えて、「ツーリズムにおけるデジタル基盤整備」と「デジタルを前提とした環境整備」も掲げた。これは、「全国のコンテンツの磨き上げや付加価値の高いプログラムの開発が進みつつあるがそれを国内外に広く周知し流通させる体制はない」との課題認識によるもので、「国とも連携し、観光業界全体でのデジタル環境を整備し、そのうえで観光DXを積極的に推進したい」という。
4点目は髙橋氏が「旅行業を持続可能な産業とするためには最も重要なテーマ」とする人財関連で、人材の確保と育成、さらに多様な人材の積極活用を目指す。JATAとしても次世代を担うリーダー層向けの研修新設や、「OB/OGに経験や知見を発揮してもらうためのホームエージェント型旅行業代理業者の導入」も検討する。
最後の「レジリエンス」は「大災害の被害からの復元力」との位置付けで、観光地における災害情報を共有するシステムの構築や、コロナ禍での雇用調整助成金のような公的支援獲得のための関係機関との連携、記録の保存などを重点項目とした。
このうち災害情報の共有システムについて髙橋氏は、災害発生時の被災地は復旧と復興に全力を注ぐ必要があるにも関わらず、現在は宿泊施設の営業状況や現地の交通情報などについて旅行会社各社が個別にFAXや電話で問い合わせることで現地に負担をかけていると指摘した。また、災害発生時の訪日旅行者へのタイムリーな情報発信も合わせて解決する必要がある問題とし、国などとも連携して取り組んでいく方針を示した。
そして最後に髙橋氏は、これらの提言について「会員各社が自社の立場に置き換えて検討、実行することが重要」で「それぞれの取り組みの総和が旅行業の再生につながる」と強調。そして世界経済フォーラムの観光競争力ランキングで日本が初めて世界一と評価されたことに触れ、「日本には圧倒的な1位を継続する力があると信じている。日本の将来を担う観光産業のエンジン役である旅行業を、日本で最も魅力ある産業に育てていこう」と語り行動を呼びかけた。
全国旅行支援の早期決定と水際対策緩和も要望
なお、コロナ禍からのリカバリーに向けて髙橋氏は、冒頭の挨拶でも臨席した観光庁長官の和田浩一氏に対し「全国旅行支援」について早期に実施を決定するとともに、分かりやすくすべての観光業者が恩恵を得られる形で展開されるよう要望。また水際対策についても「依然として煩雑かつ分かりにくく、アウトバウンドとインバウンドの双方で大きな障壁」となっているとし、「G7並みの対応に1日も早く近づけ、世界に開かれた日本を実現すべき」と訴えた。