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旅行事業と地域商社事業の2本立てでウィズ・アフターコロナの市場に挑む-たびまちゲート広島 長沢伸彦氏

  • 2022年6月6日

安売りや価格競争の意識は排除
地域商社事業部と連携して独自のツアー造成を展開

-新しい商品開発についてはいかがですか。

長沢 地域商社事業部で広島市平和記念公園レストハウスの運営・管理を手掛けていることもあって、今年度からは県外客向けにレストハウスを起点とするツアーの造成を本格化し、誘客を強化します。原爆体験の再現VRを利用して原爆ドームや相生橋、元安橋などを案内するガイドツアー「PEACE PARK TOUR VR」は好評で、今後はさらに平和学習の素材として教育旅行へのアプローチを進めます。

-インバウンドについては、どのような取り組みをお考えですか。

長沢 早ければ夏にもインバウンド再開という期待はありますが、回復と言える状況になるのは早くても来年以降になると見ています。地域商社事業部を立ち上げた際に、レストハウスを起点としたインバウンド商品の開発を構想しましたが、現在は凍結しています。もちろん中長期的には再検討していくつもりです。

-最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

長沢 明るさの兆しは見えますが、コロナ以前には戻れません。ものすごいスピードで世の中は変化しています。旅行・観光業界はその変化に素早く対応し、失敗を恐れずに新しい目標に挑戦していく。これしかないと感じています。

-ありがとうございました。

PEACE PARK TOUR VR

旧中島地区(現在の平和記念公園一帯)を再現したVR映像  インタビュー後、たびまちゲート広島が主催する「PEACE PARK TOUR VR」を取材した。ツアーでは実際に平和記念公園を巡りながら、VRを通して被爆者の話や過去の写真を基に再現した爆撃直後の状況を追体験する。柱や壁に原爆の痕跡が残されている平和記念公園レストハウスの地下室からスタートし、ガイドの説明を聞きながら元安川の対岸の原爆ドームや爆撃の目印となった相生橋などを散策。今立っている場所の現在の様子と被爆直後の様子とを、ゴーグルの着脱で容易に比較できるのが興味深い。映像の制作においては大学教授と共にリサーチを行い、当時の景色や爆弾が落ちる角度などを綿密に再現した。子ども向けには、刺激の強い悲惨な光景を伏せたバージョンも用意している。また、訪日外国人向けには英語版もある。

 広島出身者の多い同社でも、地元の暗い記憶として、原爆の話をどこか避けている若い社員が多かったという。ツアーの内容について事業推進課で課長を務める山口洋氏は、「辛い記憶だけではなく、いかに人々が復興してきたかということも伝えたいと思い、希望も持てるストーリーにした」と話す。なかでも原爆投下2日後に広島銀行が、3日後に広島電鉄が営業を再開したというエピソードは印象的だ。最新技術を活用して土地の歴史を伝えるVRツアーは、参加者と地元の人々とを繋ぐ旅行商品の新しい形の1つになりそうだ。