【弁護士に聞く】宿泊単品の募集型企画旅行契約と手配旅行契約の違いは?
前回に引き続き、ある大手旅行会社のリテーラー氏からの質問である。いわゆる宿泊単品の募集型企画旅行と手配旅行との扱いにつき疑問があるという。これを機会に少し整理してみたい。
企画旅行契約と手配旅行契約の違い
募集型企画旅行契約も受注型企画旅行契約も募集の有無が異なるだけで、基本は同じ企画旅行である。そこで、企画旅行契約と手配旅行契約を比較すると、その違いは表のとおり。ここで注意すべきは、契約内容は各旅行会社の旅行業約款の募集型又は受注型企画旅行契約の部と手配旅行契約の部の定めによるもので、旅行業法第2条の定義規定は全く関係ない(前回の解説参照)。
企画旅行契約と手配旅行契約との相違比較項目 | 企画旅行 | 手配旅行 |
---|---|---|
値付けの有無 | ○ | × |
手配完了義務 | ○ | × |
仕入れ価格変動のリスク | ○ | × |
旅程管理義務 | ○ | × |
旅程保証責任 | ○ | × |
特別補償責任 | ○ | × |
これらの違いの生じる一番大きな理由は、最初の項目にある「値付けの有無」である(「可否」ではなく「有無」であることに注意)。企画旅行契約では、「旅行代金」ということで運送・宿泊サービスの代金に旅行会社の必要経費と利益相当分をオンして包括料金として契約する。対して、手配旅行契約では、運送・宿泊サービスの代金である「航空券代」、「宿泊代」とは別に旅行会社の手数料に当たる旅行業務取扱料金を示して契約する。
消費者としてみれば、包括料金を払うとなれば、旅行サービスの手配は完了しているか、完了していなくとも旅行出発日までには完了するもの、つまり旅行会社は手配の完了を約束した(一種の請負契約)と理解するだろう。旅行会社は包括料金で手配を請け負った以上は、その後に旅行サービスの代金が値上がった場合にもそのリスクは旅行会社が負担せざるを得ないこととなる。対して、「航空券代金」、「宿泊代金」という形で旅行サービスの代金の明細が示されて、さらに旅行会社の手数料も別途示されれば、消費者としては、旅行会社が手配事務を処理することを約束したもので(一種の委任契約)、これから手配を開始するもので、満席等で手配できない場合でも、手数料である以上は支払わざるを得ないと理解するだろう。また、手配完了までの間に旅行サービスの代金が値上がった場合にも、手配を依頼している以上は消費者がそのリスクを負わざるを得ないと理解するだろう。
企画旅行契約における旅程管理義務、旅程保証責任及び特別補償責任は観光庁長官と消費者庁長官の定めた標準旅行業約款による政策的責任であるが、企画旅行のみにあるのは、旅程全般の手配を請け負った旅行会社であれば、そうした負担に耐えられるという判断からである。
なお、業界人は企画旅行契約において旅行会社が自由に旅行代金を設定できることを「値付け」と呼び、「手配旅行契約では値付けは許されない」と表現するが、正確ではない。契約の世界は契約自由の原則が支配しており、当事者間の合意次第で、法律と異なり「許す」、「許されない」という関係ではない。旅行会社の値付けを消費者が了解すれば企画旅行契約であり、消費者が了解せず内訳明示を求めて旅行会社がこれに応じるのであれば手配旅行契約となるものである。
次ページ >>> 宿泊単品の募集型の特殊性