「旅行を売りたければ旅行以外を売る」安定収益を目指すこれからの旅行会社とは―シティツアーズ代表取締役 日比幹氏

  • 2022年4月5日

多角化戦略が支える経営と雇用
業界全体で旅行業を儲かる産業に

-では、旅行会社には何が求められるとお考えですか。

日比 すごく難しい質問ですね。OTAとは違う部分を旅行会社と定義をするとして、求められているのは、情報と情(じょう)ではないでしょうか。スマートフォンの画面に表示されるテキストデータにはない「情報」と「情(情け)」です。情とは顧客のあいまいな要求にこたえる誠意だと思っています。物量と営業時間において我々はOTAにはかないません。だからこそ、情報と情のクオリティを提供していかないといけないでしょうね。

 それでも、OTAの伸長とダイナミックパッケージ(DP)の普及によりリアル店舗は間違いなく縮小していくと思います。OTA・DP時代に耐性のある旅行会社に変貌する必要があります。

 例えば、電気自動車(EV)をOTAとします、ガソリン車が当社のような一般的な旅行会社として、一気にすべてがEVになるわけではないですよね。中間的な存在のハイブリッド車に一定の顧客ニーズがあると思います。当社は対面・非対面双方の販売形態を持つハイブリッド旅行会社を目指しています。とはいえ巨大なシステム投資を要するネット販売など大手さんにしかできないことに中途半端に手を出す気はさらさらありません。現在店舗では、LINEを使ったストレスフリーな問い合わせ対応を行うための環境を整えています。

 それから、当社は旅行にこだわるつもりもまったくありません。社員には「旅行を売りたければ、今は旅行以外を売れ」と言っています。旅行以外の商売でしのいでいかないと、旅行が売れるようにならないです。最初、社員はものすごく抵抗していましたので、一生懸命説得しました。今では皆、「非旅行」を売るのが当たり前になってきたと思います。「シティツアーズという船に乗るか、旅行会社という船に乗るか」と社員には問いかけています。売上としてはまだまだですが、気持ちの転換という意味では効果があったのではないでしょうか。

 旅行って、究極のフローの商売じゃないですか。昨日の客が明日の客にならないわけです。今の時代、浮き草稼業では安定した経営も社員の安定雇用もできません。だからストックの商売、毎月安定して収益が上がる事業が必要なのです。「このベースがあるから、フローの商売が減っても食べていける」というものを作っておきたいのです。安定した賃料収入が得られる不動産リース業を手掛けているのもそのためです。

-最後に、読者にメッセージをお願いいたします。

日比 旅行業界の人って、やっぱり旅行が好きな人が多いですよね。でも、私はそれが弊害になっているような気がしてなりません。旅行業にこだわらないことも必要です。そして、そもそも儲かる産業にしないと人材が来なくなります。観光産業を志望する人材を増やそうと思うなら、給料を上げるしかありません。そして、給料を上げるためには高く売らなければなりません。だから、「高く売れ」と言いたいです。業界全体として何ができるかと聞かれると私もちょっと分からないのですが、やはり「高く売る」ということは皆で考えるべきだと思います。

-確かに、安く売る努力だけでは難しいですね。本日はありがとうございました。