第6回日本宿泊ダボス会議、アルベルゴ・ディフーゾの現状や成功事例を紹介
町全体を1つのホテルに、宿泊施設が地域創生に果たす役割を探る
日本版ADの元祖、岡山県矢掛町
2018年に日本初のADタウンの認定を受けた岡山県矢掛町。江戸時代には旧山陽道の宿場町として栄え、現在も本陣、脇本陣、200戸に上る町家が当時の姿のまま残るが、10年前には人口減少により空き家が増加し、売却や解体の危機に瀕していた。町並みの崩壊を危惧した矢掛町は、既存の資源を活用した古民家再生事業を実施。こうした取り組みが奏功し、2013年には年間18万人台だった矢掛町の観光客数は、19年には30万人台に増加した。
ADJ副会長で、矢掛町のまちづくりに尽力してきた矢掛屋代表の安達精治氏は、「地域の方々と共に優れた文化を次世代まで残すことで、地域の方々を幸せにし、誇りを持てる町にしたい」との考えで事業を進めてきたといい、「ADはゴールではなく、町を残す手段の1つ。水道光熱費や人件費を通常のホテルよりも抑えることができ、事業リスクも低い」として、ADが日本の町の再生の大きなヒントになることを強調した。
「町まるごと職人に弟子入りできる宿」富山県井波
富山県南部、南砺市の北部に位置する井波は、人口8000人の内200人が木彫刻師という職人の町だ。コラレアルチザンジャパンではそこに注目し、「職人に弟子入りできる宿」をコンセプトに、2016年から遊休不動産を活用した分散型ホテル「Bed and Craft」を運営している。
同社は現在、6棟の1棟貸しの宿に加え、飲食、物販など9つの施設を運営し、宿泊しながら職人と一緒にものづくりを体験できる新しい旅の形を提案している。宿泊施設では1棟ごとにメインの作家を配し、宿泊客が作家の世界観を体験できる「マイギャラリー制度」を採用。作品をレンタルして宿に置くことで、宿泊代金の一部がインセンティブとして作家に支払われ、作家には作品を販売する機会となる。また、宿泊施設内ではなく町の中心にラウンジを設置し、観光客と地域とのコネクティングポイントを増やす工夫も行っている。コラレアルチザンジャパン代表の山川智嗣氏は、「その町から離れたとき、ホテルのイメージではなく、地域の人との交流や買い物、食事のイメージが残るような町にしていきたい」と目標を語った。