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第6回日本宿泊ダボス会議、アルベルゴ・ディフーゾの現状や成功事例を紹介

  • 2022年3月8日

町全体を1つのホテルに、宿泊施設が地域創生に果たす役割を探る

失敗から学び再起、島根県有福温泉

高野氏

 今回の会議では分散型ホテルの成功事例も紹介された。島根県江津市の有福温泉では温泉街再生のために15年前から分散型ホテルの取り組みを開始。6軒残っていた旅館のうち3軒の経営を統合し、町全体を1つのホテルと見立てて生き残りをかけたものの、10年後にこの取り組みは頓挫、破綻した。しかしこの失敗を糧に改めて再生を目指し、3年ほど前からAD構想を推進している。

 地域再生コンサルタントとして再生に取り組むCatalyst代表取締役社長の高野由之氏によれば、大きな課題の1つが食事だという。旅館の食事は「全国的に画一化が進み宿泊客にとって魅力が薄い内容になっている。にもかかわらず宿泊施設側にとって食事の提供は人手も原価もかさみ利益率の圧迫要因になっている」からだ。そこで有福温泉では町の中心にあったが閉店してしまった土産物店をセントラルキッチンに改装。朝食や夕食の受け皿とし、各旅館が泊食分離できる環境を実現した。このほか高野氏は自らが関わった西伊豆の古民家再生宿についても説明した。

せとうちDMOの庄原古民家再生

木村氏

 せとうちDMOでは広島県庄原の古民家再生と地域内の協力体制の構築を手掛けている。庄原市は人口3万人で面積の97%が山林。戦後は人口減少が進行しており、一般的にいうところの観光素材もないに等しい。しかし瀬戸内ブランドコーポレーションのマーケティングスペシャリスト木村洋氏によれば「ニューツーリズムの観点で見れば魅力的で、東京や外国からの目線で価値分析をしてみると、写真を見ただけでそこへ行きたくなるような美しい棚田があり、きちんとブランド化すれば滞在してお金を払う人が出てくると確信できた。最終的には、自然と人が長い時間をかけて作り上げたベストバランスな生き方がここにあるという意味を込めて『1000年アート』というコンセプトを掲げた」。

 古民家を再生した宿泊施設はコロナ禍直前の2019年に開業した。投資と経営は瀬戸内ブランドコーポレーションが担うが、実際に施設を運営し動かすのは地元の各関係者であり「この体制づくりに時間をかけた」(木村氏)という。その結果、現在の運営は庄原のDMOが行うことになった。また市や商工会議所は地元の合意形成や物件探しを担っている。さらに地域住民も清掃などをDMOから委託され手伝う形で事業に参画。食体験やサイクリングのガイド役も地元から人選する仕組みだ。こうした体制により宿泊施設の利益を地域全体で分け合う形を作り上げたのもプロジェクトの特徴だという。

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