星野リゾート、コロナ禍はワーケーションと国内旅行市場への誘導がチャンス-新春インタビュー
Go Toは観光産業を下支えする制度設計を要望
積極的な海外進出により世界で利益を上げる体制に
星野リゾートは、コロナ禍を生き抜くため、2020年4月から「18ヶ月サバイバル計画」を打ち出してきた。しかし、コロナの影響は長期化し2021年を通じて厳しい環境が続くことになった。そのなかでも、マイクロツーリズムに活路を見出し、新たな需要を開拓。新しい国内旅行のカタチを創出してきた。2022年の旅行市場はどう動くのか。アフターコロナに向けた星野リゾートの戦略とは。2021年の振り返りともに、同社代表の星野佳路氏に聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)
星野佳路氏(以下敬称略) 新型コロナウイルスに関しては、2020年から対応を進めてきました。影響が長引き、需要の回復が想定よりも遅れたことで、2021年は対策の継続が強いられる状況でしたが、最初の緊急事態宣言が発出された2020年の4月〜6月ほどの危機感はありませんでした。
最低限の需要を確保するために、マイクロツーリズムを訴求し、昨年の「Go Toトラベル」が開始された時期から、その取り組みをさらに強化しました。その結果、2021年の業績は前年よりも改善しました。
星野リゾートでは、マイクロツーリズムを推進するために、全国を11の商圏に分けて、それぞれ専用のホームページを作り、商圏ごとに地域媒体と協力しながらでマーケティングを展開しました。地域ごとに異なる魅力や価格を提案することで、需要を喚起できたと思います。例えば、九州では2021年に「界 霧島」と「界 別府」を開業しましたが、宿泊者の大半が九州域内からでした。
しかし、好調な地域や施設とそうでないところとの差は大きかったのも事実です。例えば、有名温泉地や都市近郊の観光地の需要は高まりましたが、都市部のホテルは苦しみました。また、遠距離の移動が必要な北海道や沖縄もマイクロツーリズムの需要を取り込めず、苦しい状況が続きました。その差を埋める努力を1年かけておこなってきましたが、難しかったというのが実感です。
星野 すべてコロナの感染状況に影響を受けるので、予想は難しいと思います。緩和ムードが高まっているなかで、想定していなかったオミクロン株が出現し、国内では「Go Toトラベル」の再開も不透明な状況です。
それでも、国内旅行は感染状況が落ち着き、ブースター接種も進めば、2019年と同じ程度の需要に戻ると見ています。ただ、都市は、イベントやテーマパークなどの入場制限が続くと需要の回復は遅れるでしょう。また、沖縄や北海道の回復も遅れ、地域間の回復の格差は続くと思います。
インバウンド市場についてはある意味、予想しやすいかもしれません。2019年のインバウンド市場のうち約60%が中国、韓国、台湾、香港の東アジアからの訪日旅行者ですが、それぞれ接種したワクチンの種類が日本とは異なります。今後、ワクチン接種パッケージを活用した訪日の再開を進めるうえで、それに対応する議論もまだ進んでいません。感染状況が落ち着いても、インバウンドは国と国との関係やルールに左右されます。それを考えた時、インバウンドの復活は相当先になるのではないでしょうか。
2022年は2019年比で15%ほどにとどまると見ています。日本としては、2025年の「大阪・関西万博」に向けて100%に戻していくことが目標になるでしょう。
海外旅行については、帰国後の自主隔離期間が課題になります。ハワイでは一時隔離措置の免除をおこないましたが、日本人の需要は戻りませんでした。帰国後の自主隔離が足枷になっていたと思います。双方の国・地域での緩和が進まなければ、本格的な需要回復にはつながらないでしょう。
旅行市場全体を見ると、海外旅行需要の回復の遅れは、それほど致命的な問題ではないと思います。インバウンド市場の約4.8兆円を失っても、日本人が海外旅行で消費していた約3兆円あると思われるマーケットが、国内旅行に向かうことで、国内旅行市場は22兆円から25兆円に増えることになります。ただ、課題は、この新たな需要を都市近郊の温泉地や観光地だけでなく、北海道や沖縄などの遠距離旅行や都市部の観光につなげていくことだと考えています。
次ページ >>> 新GoToトラベルの見解は?