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【ホテル総支配人リレーインタビュー】第10回 東京ステーションホテル常務取締役総支配人 藤崎斉氏(後編)

  • 2021年11月12日

短期的な利益ではなく大切にすべき顧客を優先、マーケティング3.0への思い

―ザ・キャピトルホテル東急の末吉孝弘総支配人からの質問です。「根っからのホテルマンである藤崎さんが、全く企業文化も体質も異なる企業体のなかでホテルを任されているわけですから、様々な困難や課題に直面したはずです。それでも革新的な試みを成功させ、リニューアルをやり遂げ、新たなブランドを確立するに至りました。素晴らしいリーダーだと尊敬しています。そのリーダーシップの源泉は何なのか、信念を貫けた秘訣は何なのか伺ってみたいです」

藤崎 親会社のJR東日本は鉄道事業が主力事業ですから、安全安心に関しては航空会社同様一丁目一番地です。しかし安全安心に関しては超の付くコンサバであったとしても、企業文化や体質そのものは別です。ホテル再開業に関しては、役員を含むさまざまな方々が全面協力してくださいました。なかには「困ったことがあれば何でも相談に乗る」と言ってくだった方もいらっしゃいました。

 忘れられないことがあります。IMF世界大会が2012年10月に東京で開催されることになり、親会社からオフィシャルホテルの認定を獲得してほしいと言われました。しかしホテルは未だリニューアル工事中で、開催のタイミングはホテル再開業1週間後。さすがにオペレーション等に不安もあり難しいと答えると、親会社の役員が「諦めない。一緒にやろう」と。加えて、仰っただけでなく一緒に財務省まで同行営業をしてくださいました。霞ヶ関駅で待ち合わせして財務省へ向かった時のことは今も忘れません。

 JR東日本からは多くのことを学ばせてもらいましたが、最も大きかったのは中長期の視点でした。ホテルは瞬間生産、瞬間消費、瞬間評価のビジネスです。特にグローバルチェーンでは短期的利益を追求するオーナーや投資ファンドへの説明が多く、短期的利潤追求の重要さは身に染みています。しかし5年先、10年先、あるいはそれ以上のスパンで物事を考える視点はここで教えてもらいました。たとえば北海道新幹線のプロジェクト。整備新幹線計画ができてから津軽海峡を渡るまで40年以上かかっています。働き始めてから退職するまでの間には完成を見ることができないかもしれないプロジェクトを誰かが担い、次へ引き継いできたわけです。そういう視座に立った考え方はまさにJR東日本グループで学んだことです。

 JR東日本は、この東京駅丸の内駅舎の保存・復原プロジェクトに取り組むに当たって「これまでの100年を受け継ぎ、次の100年を創る」という理念を掲げました。我々が生きていない100年後にも東京の中心で輝き続け語り継がれるホテルを、先人たちから受け継ぎ、今度は我々が次へバトンを渡していかねばなりません。ホテルを取り巻く状況が厳しいからクローズする、休業するなど、どんなに辛くてもあり得ません。旅行者が東京駅を降り、駅前広場で駅舎やホテルを見たとき、その存在感は格別です。やはり東京ステーションホテルはホテル以上の価値を問われているのだと思いますし、それが原動力となります。

―トラベルビジョンの読者にメッセージをお願いします。

藤崎 この状況下、おそらく皆さんもどうやってキャッシュフローを確保していくかに腐心されていることと思います。企業ごとに事情も異なり、できることとできないことがあると思います。事業継続のためにありとあらゆる可能性を検討すべき。そういう非常事態です。ただし移動したい、旅に出たいというのは人間の本能です。必ず、絶対に需要は戻ります。自由な移動、行動ができず新しい発見もできなければ人間は生活できないと思います。移動や旅行は本能に基づく最強の実需です。ですから、いまはファイナンス問題に全力で取り組み、来たるべき時に備えなくてはなりません。自分たちの本当の価値や良さ、そして自分たちがやらねばならないことを見つめ直し、それを形にして展開できるよう準備をしておくことが重要だと考えます。

―最後にバトンを渡される方のご紹介と、藤崎様からその方へのご質問をお願いいたします。

藤崎 同じ「日本クラシックホテルの会」のメンバーでもある雲仙観光ホテルの船橋聡子さんにバトンを渡します。我々のように大商圏に立地するホテルとは異なる、地方のリゾートとしてのご苦労も喜びもあると思います。元々外国人用リゾートホテルとして誕生したわけですが、特に、その魅力を国内だけでなく海外まで伝え、雲仙まで誘致するのは決して簡単ではないと思いますし、グローバルマーケティングに長けていなければできません。そうした取り組みについて、リゾートホテルの経営やオペレーションにおいて気を付けていることと併せて伺いたいと思います。

―ありがとうございました。