【ホテル総支配人リレーインタビュー】第10回 東京ステーションホテル常務取締役総支配人 藤崎斉氏(後編)

  • 2021年11月12日

短期的な利益ではなく大切にすべき顧客を優先、マーケティング3.0への思い

 第9回のザ・キャピトルホテル東急の末吉孝弘総支配人からバトンを渡されたのは、東京ステーションホテル常務取締役総支配人の藤崎斉氏。リピート率をKPIの最上位に置くマネジメントを貫き、スタッフと一体となって競合他社も一目置くラグジュアリーホテルを創り上げてきた藤崎総支配人。その言葉は、コロナ禍後の新時代に必要なものを探る手掛かりとなるはずだ。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)
※前編はこちら

―コロナ禍を受けて経費削減にも努めていると思いますが、どのような工夫をしていますか。

藤崎斉氏(以下敬称略) こういう状況ですから損益分岐点を下げる必要がありますが、コストカットという言葉は一度も使っていません。私がすべきはコストマネジメントだからです。またコストカットという言葉はスタッフを動揺させ不安にさせます。

 私が指示したのは、まず経費項目を1つ1つ棚卸しし、その経費がどうして必要なのか説明するようにということです。すると自分たち自身で「そもそもこの経費は本当に欠かせないのか」と考えるようになり、優先順位が低いと判断した経費が200件以上、金額にして数億円分も挙げられました。ただし契約企業様との交渉に当たってはリーズナブルな話をしなさいとアドバイスしました。単にサプライヤーやパートナー企業様に犠牲を強いるだけの交渉は避け、需要が戻った時にはどう対応するかを含めた逆提案も併せて示し、フェアに交渉すること、我々も相手から見られていること、一旦失った信用は戻らないことなどを指摘したうえで任せました。

―今後の市場動向について、2022年は2019年比でどこまで需要が戻ると見ていますか。

藤崎 率直に言って分かりません。コロナ禍中に、感染者数やワクチン接種率の推移等のデータに加え、過去の市場動向等を分析し、コロナ禍の影響のピークアウト時期を予想しましたが、ものの見事に外れました。インバウンド需要については回復予想をするというより、本当にインバウンドビジネスが欲しいのかという原点に戻り、ゼロベースで計画を立て直しました。これは2013年に東京オリンピック開催が決定し、インバウンドという言葉が流行語にもなった頃に行ったのですが、社内でインバウンドのメリット、デメリットを洗い出すと、メリットは「宿泊日数が長いため清掃費用などの圧縮が可能で、チェックイン・アウトの作業工程も減らせる」「ホテル内飲食が増え売上にプラス」等が上がりました。一方でデメリットは「語学堪能なスタッフの増員が必要」「コンシェルジュも現行要員だけでは人数不足」「フィットネスセンターやルームサービスを24時間対応に変える必要がある」等でした。それらを総合的に判断し、インバウンド比率はオリンピック開催年のピークにおいて最大40%と決めました。我々にとってそれが最適のバランスです。それ以上増えれば現行オペレーションが崩れるし、人的リソースの見直しも必要になるからです。またホテルを強く支持してくださる国内顧客のリピートに支障が出てはならないからです。無論、2015年に加盟したSLH(Small Luxury Hotels of the World)などのリソースを活用し、広く世界にこの価値を届けてくことは継続して行いますが、ブームだからと飛びつくのではなく、あくまでも自分達のコアバリューを大切にすることが重要だと考えています。

 目前のイールドを上げるだけならインバウンドをもっと取り込む方が得策かもしれませんが、短期的な利益だけではなく、大切にすべき顧客を優先し、価値を創造し、そして届けていく。それこそが我々が考えるレベニューマネジメントであり、マーケティング3.0です。

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