コロナ禍の取り組み、逆境を逆手にとって仕事の幅を広くする-Rakuten Optimism2021
楽天が国内外の各分野の業界リーダーたちを集め、デジタルの可能性について意見交換するため開催したビジネス・カンファレンス「Rakuten Optimism2021」。「コロナ禍の旅行業界の取り組み・トレンド」をテーマに掲げたパネルディスカッションには「地球の歩き方」編集長の宮田崇さんと、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」プロデューサーの詩歩さんが登壇した。
海外旅行にかかわる仕事が中心の詩歩、宮田の両氏ともコロナ禍で多大な影響を受けているが、両氏とも逆境を逆手にとって仕事の幅を広くすることに成功している。海外渡航が制限され、海外旅行ガイドブックの販売にも急ブレーキがかかるなか「地球の歩き方」は昨年、シリーズ初の国内版となる「地球の歩き方 東京」を発行した。もともと東京五輪を機に五輪観戦ガイドの発行を検討していたが開催延期で企画は取りやめになっていた。しかし切り口次第で魅力的な東京のガイドブックとして仕上げることができると判断した。海外各国編は取材もままならず改訂が難しい状況もあって国内に力を結集させた面もある。
また「地球の歩き方」が都市中心の販売で、地方での浸透度が比較的劣る弱点を克服する狙いもあって地方需要が大きいと思われる東京を対象デスティネーションに選んだという。さらに「情報の鮮度の点でわれわれはSNSに敵わない。だからこそ流行り物は敢えて捨てる『ノー・タピオカ』のコンセプトを徹底し、『満員電車の乗り方』など東京に暮らす人には当然でも、東京にやってくる人たちには重要な情報をできるだけピックアップした」(宮田編集長)。その結果、8万9000部というガイドブックとして大ヒットの販売部数を達成した。
詩歩さんは海外渡航が難しくなったため、「まず、いまできることを検討し勉強の時間に充てようと決めた。京都在住なので京都に関する知識を鍛えることができる京都検定を受けることにしたが、住んでいても知らなかった知識を蓄えることができた。またたとえば『京都には多くの寺社があるのに清水寺はなぜ別格の人気があるのか』といった、これまで考えたことがない発想で自分の街について学ぶことができた」という。京都に限らず各地域が地域検定を設けており、合格を目指して学ぶことが地域と観光のありようを知る上で貴重な知識にもなると指摘する。
また余裕がある時間を利用してSNSに掲載する写真の見直しも進めたという。まず自分のSNSの掲載写真に対する反応を分析し、東京の写真の反応が良いことが分かった。そこでTV、ラジオ、本、雑誌、SNSにアンテナを張り良い東京の写真を調査し、同じ撮影地に出向き自分なりの写真を撮ることに力を入れた。詩歩さんは「コロナ禍中のこうした勉強や自分への投資が仕事の成果にもつながっている」と説明する。
宮田編集長は「地球の歩き方 東京」だけでなく、長引くコロナ禍に対して注力分野を海外から国内等へシフトしスタッフやライターの仕事を確保すると同時に、新たな読者層の開拓に努めている。例えば「地球の歩き方 御朱印」は、コロナ禍を機に投入する人員を増やしてシリーズを拡大。「旅好き女子のためのプチぼうけんガイド」を掲げる「地球の歩き方 aruco」シリーズでも、今年7月には東京編と「東京で楽しめる海外シリーズ」(フランス・韓国・台湾)を発行した。
また東京五輪の開会式に合わせて、参加各国の情報をまとめて発行する予定だった「旅の図鑑」のアイデアを生かして、単発で終わる予定だったものをシリーズ化し、「世界のグルメ図鑑」「世界の魅力的な奇岩と巨石139選」など9冊を刊行。実際に旅行に行けなくても旅先の情報を読み物として楽しめる内容にまとめた「旅の図鑑」シリーズも、ヒットシリーズとしてコロナ禍の「地球の歩き方」を支える力になった。
詩歩さんは写真の重要性について、たとえば宿泊施設のウェブページに使用される写真を取り上げ「古い写真が使われていたり、少し工夫するだけで見違えるように印象を変えられると思えたりする掲載写真も少なくない。コロナ禍の時間を使って写真を一新できるのでは」と提案する。
しかも写真撮影の特別な機材やテクニックは不要だという。「カメラは性能が上がっており、どんなカメラかは問わない。スマホでも構わない。より大切なのは、どのタイミングでそこにいて、どのようにお洒落な角度で写真を撮れるか。何がお洒落かは、ユーザーのSNSなどが教えてくれる」と、ユーザー目線でSNS等に目を凝らし続けることが重要だとアドバイスした。