「送客」から「創客」へ、地域主体の観光街づくりを目指す-「道後御湯」宮﨑光彦氏

  • 2021年9月1日

伝統を継承しつつ常に新しい挑戦を続ける
稼働率を支えるのは「定休日」

-地域や環境への取り組みについてお聞かせください。

宮崎 私は県庁時代も含めて30年数年街づくりに携わってきています。道後は豊かな歴史資源に恵まれた日本最古の湯ですが、国の重要文化財である道後温泉本館に頼り過ぎているという反省があります。「名湯に浸り、本物の歴史文化に浸る」をテーマに4年前にできたのが、第3の外湯と呼ばれる「道後飛鳥乃湯泉」です。これは、道後温泉誇れるまちづくり推進協議会が「歴史的温泉施設群」として外湯を点在させることで、街歩きと組み合わせて楽しめるようにと構想しました。

 また、看板類の自主撤去や歩行者道整備など「歴史漂う景観まちづくり」を目指した結果、2016年には国連のアジア都市景観賞を受賞しました。外湯巡り用の竹籠も各施設で用意し、お客様が街歩きを楽しめるような仕組みを作っています。次は、かつて色町だった「上人坂」の再開発を目標としています。

 道後は5年連続で女性の1人旅人気ナンバー1に選ばれているのですが、なかでも8年前から始めた寺社仏閣やパワースポットを楽しみながら街歩きする「道後開運巡り」が好評です。今後も本物の温泉の魅力を伝えることが重要だと考えており、そのための取り組みとして、現在はワコールアートセンターさんと共同で「ボディケアツーリズム」を企画しています。

 一方で道後はインバウンドが弱く、コロナ前でもインバウンド客は全体の5%程度で、内5割が台湾、2割が香港でした。コロナ後に向けて多言語での表示を増やすなど、誘客のための情報基盤整備を進めており、SDGsの取り組みも今年から道後全体で進めています。加えて、南海大地震などいつどんな危機が起こるか分からないので、災害に強い街づくりにも地域ぐるみで取り組んでいます。

 また、地元の方に地域のことをより知ってもらうため、今年から愛媛大学と共同で「道後学」を始めました。卒業後、将来の顧客となる松山に住む学生さんにも地域に目を向けていただくなど、関係人口拡大に向けて地道な活動をしていきたいと考えています。

 道後温泉の経営は民間ではなく松山市が行っています。私は「送客から創客へ」という表現を使っているのですが、地域自らが主体となってお客様を創り出していけるよう、道後温泉本館保存修復工事で成果を上げている市との連携を更に密接にし、データに基づいた戦略を展開していきたいものです。

-読者にメッセージをお願いいたします。

宮崎 「旅行に行きたい」という気持ちは絶対になくなることはありません。私たちの役割は人々を元気にすること、そして地域の産業も元気にし、雇用や暮らしを守るということです。今も宿泊、飲食、観光、運輸などの業界は苦戦していますが、以前のレベルに戻らないまでも、もうひと踏ん張りで突破口が開かれてくるでしょう。自身を鼓舞する意味も含めて、皆さんにエールをお送りしたいと思います。「ともに頑張りましょう。」

-ありがとうございました。