京都のルーツを胸に「一味違う楽しみ」追求、旅行会社の枠にとらわれず楽しみながらできることをートラベル京都 近藤芳彦氏
京都生まれの京都育ち、京都で観光事業を営むトラベル京都の代表、近藤芳彦氏。富裕層向けの奥深い京都ツアーからホテルのコンサルティング、海外のトラベルテック企業との提携まで、「京都を支える」という軸のもと柔軟に事業を展開している。旅行会社の枠に留まらない生粋の京都人に話を聞いてみた。
近藤芳彦氏(以下敬称略) 旧トラベルジャーナル旅行専門学校を卒業し、旅行会社に3年勤務したのち運輸系の会社に在籍し、2006年にトラベル京都を設立しました。2016年には観光と地域・産業・文化を結ぶ京都のコーディネーター事業を行うため、京都結という会社も立ち上げました。
曽祖父は彫刻家で、八坂神社の狛犬や円教寺の如意輪観音坐像ほか数々の作品を残しています。祖父は元々官僚でしたが住職へ転身、早世した父は京表具師という家系で、私も寺の孫として育ちました。ある時から先祖を敬う気持ちが強く芽生え、京都の伝統文化を支えてきた方々にスポットを当てるような観光事業を行いたいという気持ちを原点に今に至っています。
近藤 トラベル京都設立時は京都発を主軸としたバス観光を取り扱っていましたが、燃料が高騰したことを受け、京都へのインバウンドをターゲットとした着地型旅行へ戦略を切り替えました。当時は観光庁が発足し、「着地型観光」という言葉を聞くようになり始めた頃で、京都に来るお客様をターゲットにする経営をどうするか分からないなか試行錯誤していたのですが、大きなターニングポイントは京都府との出会いでした。府からの委託ではなく共同で「京都府・地域力再生プラットフォーム事業」を行うこととなり、府の地域力再生活動担当の方と京都中を行脚しました。こうした取り組みを続けるうちに人脈ができ、今の糧になっています。
当初は日本人の富裕層を対象に「京都の文化や伝統工芸を受け継いでいる方々と出会える」というコンセプトの旅を企画販売しており、「近藤さんの旅行に来ると友達が増える」とよく言っていただいていました。また、パッケージ化できる体験ツアーについてはOTAを経由して販売も拡大しました。
一方、一般の旅行会社が考えるツアー造成とは少し違う、「街づくり」の角度での観光プロデュースもしていたため、その頃から「これって旅行会社の仕事なの?」と聞かれることが増え、それならばとコーディネート業を主軸とする京都結を立ち上げました。こちらではコンサルタント的な立場で地域の繋がりづくりや街づくりに携わったり、コーディネーターとしてホテルや行政向けのプロデュース業を手掛けています。具体的にはバンヤンツリーの上級会員に向けた京都でのコンシェルジュ事業や、2024年に東山にオープンする隈研吾氏デザインのホテルのコンテンツ作成などです。
近藤 大きな柱だったエクスペディアとの取引がほぼゼロになりました。またFITの顧客についても、海外はもちろん国内もご年配のお得意様が多いということもあり取扱件数は減っています。一方で、2020年からヨーロッパのチケット販売サイトと連携を開始し、同社のウェブサイト内で京都を紹介する際に知見やアイデアを提供したり、弊社が紹介してチケットを流通する仕組みを構築するなど、新たな事業も進めています。
近藤 コロナ前は異常でしたね。今の京都の方が 「らしさ」 があると思います。京都市長もあるときからずっと仰っていましたが、これからは量より質を求めるお客様を選ぶべきではないでしょうか。極端ですが、例えばルールを守れる人だけに「京都パスポート」を発行するといった施策も必要かもしれません。
近藤 もし来訪者数を制限するとなるとビジネスモデルが成立せず淘汰されることにもなるでしょう。乱暴かもしれませんが、コロナによって精査され残るところだけが残るのは、あるべき姿なのではないかと思います。
近藤 今後インバウンドで戻ってくるお客様に向けては、ヘリコプターやプライベートジェットを使い、京都に滞在しながら渋滞に巻き込まれずに関西近郊の見どころを楽しめる日帰りツアーの造成を進めています。
また、コロナ前から考えていたものの、なかなか実現できていなかったのですが、地域を超えたネットワークづくりも進めています。同じ旅行でも、地元の人に案内されて食べに行く食事や見どころにはまったく違う楽しみがありますよね。それを強みとしてそれぞれの地域で事業を立ち上げ、お客様をシェアするアライアンスを組めたら面白いなと思っています。私自身、仕事と遊びの境目なしに楽しみながら事業をやっているので、同じような感覚の方々と組んで仕事の幅を広げていきたいですね。