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海外医療通信2021年5月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2021年5月26日

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院 渡航者医療センター

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海外医療通信 2021年5月号

海外感染症流行情報

(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの累積感染者数は5月下旬までに約1億7000万人、死亡者数は約350万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2021-5-25)。世界全体としてみると、5月上旬から感染者の発生数は減っており(WHO Corona virus disease 2021-5-19)、ワクチン接種の拡大がその要因の一つになるでしょう。その一方で、南アジア(インドなど)、東南アジア(マレーシアなど)、東アジア(日本など)では感染者数が増加傾向にあり、これは変異株の流行によるものと推測されます。さらに、南半球が冬の季節を迎えつつあることから、アルゼンチンや南アフリカなどで感染者数が増加しています。今後、世界的にワクチン接種が加速することで流行は収束に向かうと予想されますが、インド型など新しい変異株の流行も拡大しており、この先の流行予測を難しくしています。

なお、日本政府は5月25日現在、緊急事態宣言を10都道府県に発出しており、水際対策の強化も継続されています。日本への入国にあたっては、検疫所のホームページなどから十分な情報を入手してください。新型コロナウイルス感染症の検疫手続き (forth.go.jp)

(2)アジア:デング熱の流行状況

東南アジア各国のデング熱患者数は例年より少なくなっています(WHO西太平洋 2021-5-20)。マレーシアは累積患者数が9,000人で昨年同期の25%、フィリピンは1万7,000人で昨年同期の60%の数です。一方、ベトナムは2万4,000人で昨年とほぼ同数になっています。シンガポールは2,000人と昨年に比べて大幅に減少していますが、従来みられなかた3型や4型のウイルスが検出されており、今後患者数が増加する可能性があります(Outbreak News Today 2021-5-1)。

(3)アジア:アジアのポリオリスク国

米国CDCはアジアにおける最新のポリオ感染リスク国を発表しました(CDC Traveler’s Health 21-5-13)。これには野生株が流行しているパキスタン、アフガニスタン、イラン(医療施設や難民キャンプのみ)とともに、ワクチン株の流行がみられるマレーシア、フィリピン、タジキスタン、イエメンが入っています。感染リスクのある国に滞在する際には、ポリオワクチンの追加接種を受けましょう。

(4)アフリカ:コンゴでのエボラ出血熱流行が終息

今年2月から発生していたコンゴ民主共和国東部でのエボラ出血熱の流行は、5月4日に終息宣言が出されました(WHO 2021-5-4)。今回の流行では12人の患者(疑いを含む)が発生し、うち6人が死亡しています。なお、西アフリカのギニアでも、1月からエボラ出血熱の流行がみられており、5月には新たな疑い患者も発生している模様です(WHOアフリカ地区 2021-5-4)。こちらは現在までに確定患者が16人で、12人が死亡しました。

(5)北米:米国各地で下痢症が流行

今年は米国各地で下痢症の流行が報告されています。東部ワシントン州では腸管出血性大腸菌(O157)による下痢症患者が多発しており、7人の重症例(溶血性尿毒症症候群)も報告されました(Outbreak News Today 2021-5-21)。現地で販売されているヨーグルトが原因と考えられています。西部コネチカット州ではドーナツを原因とするノロウイルスの流行が発生しています(Outbreak News Today 2021-5-20)。また、サルモネラによる下痢症がノースカロライナ、アイオワ、バージニアなど全米の多くの州で増えており、鶏肉からの感染が疑われています(Outbreak News Today 2021-5-23)。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年4月12日~2021年5月9日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典 2021年 (niid.go.jp) 新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年5月19日)を参考にしています。出典 000776814.pdf (mhlw.go.jp)

(1)経口感染症:輸入例としては赤痢アメーバが2人だけでした。

(2)昆虫が媒介する感染症:マラリアが1人報告されており、アフガニスタン/パキスタンでの感染例でした。デング熱の事例はこの期間に報告されませんでした。

(3)新型コロナウイルス感染症:2021年4月11日~5月8日までに311人が輸入例として報告されており、前月(147人)より倍増しました。このうち外国籍者が230人と7割以上を占めています。感染者の滞在国で多かったのは、インド105人(外国籍70人)、ネパール78人(外国籍77人)、パキスタン32人(外国籍28人)、フィリピン22人、米国17人でした。

・今月の海外医療トピックス

成人用予防接種記録手帳について

トラベルクリニックでは、受診者の接種ワクチンを決定する際、定期接種で受けたワクチンの確認をします。この時に母子手帳などの接種記録が保管されていれば良いのですが、「母子手帳がない」「いつ何を接種したのかわからない」などの‘ないない尽くし’の人や、本来必要なワクチンが未接種の人も珍しくないからです。今年2月、感染症研究所は「成人用予防接種記録手帳」をホームページに掲載しました。この手帳は今回のコロナワクチン接種記録を含め、小児から成人までの記録を集約するように工夫されています。近頃は、メディアもコロナワクチンの話題で持ち切りですが、これ程多くの日本人がワクチンについて考えたことはなかったと思います。皆さんがこれまで接種してきたコロナ以外のワクチンにも、大切な意義があります。正しい予防接種記録があり、きちんと把握されていれば、国民の感染症対策はより厚みあるものになるはずです。ぜひこの機会に手帳を活用のうえ、ご自身の感染症の予防状況をご確認ください。(助教 栗田直)

〈参考〉・国立感染症研究所 予防接種情報:成人用予防接種記録手帳
https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/record-nb/Adult_vaccination_record_notebook.pdf

・渡航者医療センターからのお知らせ

(1) オンラインによるワクチン相談

渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを提供しています(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html

(2)海外勤務者メンタルヘルス対応ワークショップ (海外勤務者メンタルヘルスネットワーク主催)

当センターの松永兼任講師らが中心になり標記のワークショップを開催します。今回は「海外勤務者の現地事情を知る」をテーマに、Zoomによるオンライン開催となります。「インドネシア邦人のメンタルヘルス事情」や「海外赴任した勤務者への聞き取りのポイントとロールプレイ」などの講演があります。
・日時:2021年6月5日(土)13:30〜15:30(日本時間)
・対象:海外勤務者に関わる人事・労務担当者 ・定員:15名程度(予約制) 参加費:無料
*詳細は、こちらのリンクをご覧ください。https://www.facebook.com/kmhnetwork