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「銀行はこう使え!」-メガバンク元営業担当が本気のアドバイス vol.6

粉飾決算の手口

 某メガバンクで新卒から6年法人営業に従事して現在は旅行業界に携わる筆者が、年商1億に満たない会社から東証一部上場の企業まで延べ100社以上を担当してきた経験を元に、皆様の「知りたい」にお答えする本企画。今回は粉飾決算についてお届けします。(過去記事はこちら 第1回第2回第3回第4回第5回

 幸い私が担当してきた会社の中で、粉飾決算が発覚した先はありませんでした。しかし一度表沙汰になれば、当該企業が倒産しないかどうかの実態把握や事実関係の調査、与信取引の見直し、本部への報告などなど、多くの仕事が発生します。粉飾された決算書をもとに融資していれば、「なぜ見抜けなかったのか」と追及されますし、当然キャリアに大きな傷を負うこととなります(銀行員はおよそ3年周期で異動しますが、このような事案は遡って追及されます)。ここでは代表的な手法を解説しますが、手口を知ることでなぜ銀行員が「在庫」や「販売先」を注意深く見るかがお分かりいただけると思います。

代表的な手口その1:在庫の架空計上

 粉飾決算の代表的な手口で真っ先にあがるのは在庫の架空計上です。銀行では見抜くために棚卸資産の回転期間で捉えることが多いですが、月商対比の在庫量が例年対比で増加しているとまず原因をヒアリングします。具体的に「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「売上原価算出」の3つで数字を追うと分かりやすいと思います。

[1]粉飾前

B/S
借方貸方
預金10買掛金35
売掛金40借入金50
商品30自己資本▲5
8080

P/L
借方貸方
売上原価100売上高120
販管費30
当期利益▲10
120120

売上原価
借方貸方
期首棚卸20売上原価100
当期仕入110期末棚卸30
130130

[2]粉飾後

B/S
借方貸方
預金10買掛金35
売掛金40借入金50
商品50自己資本15
100100

P/L
借方貸方
売上原価80売上高120
販管費30
当期利益10
120120

売上原価
借方貸方
期首棚卸20売上原価80
当期仕入110期末棚卸50
130130

 例にある粉飾前の決算書は、▲10円の当期赤字を計上している会社です。このままの決算では債務超過に陥るため、銀行の支援姿勢が変わってしまうかもしれません。そこで在庫20円分の架空計上を行い、実態では30円しかないところを50円としました。売上原価の計算に目を向けると、在庫である期末棚卸を50円としたことで、粉飾前の決算より売上原価を20円圧縮することができました。結果として▲10円の当期赤字から+10円の当期利益とすることができ、自己資本も15円と債務超過を免れることができました。

 事例からも分かる通り、在庫の架空計上による効果は「費用の圧縮」です。銀行は在庫の中身(単価、個数など)や実在性まで把握することは事実上困難なので、欺くにはもってこいの方法でしょう。逆に言えば確かめられないからこそ数値が増えると敏感に詳細を把握すべくヒアリングするのです(場合によっては倉庫などを見に行きます)。

 当然ながら事業者側にもリスクがあります。この期は何とかやり過ごしたとしても、架空計上された20円は翌期に持ち越されますから、どこかで売上原価や減損等の費用処理をしなければ永遠にこの20円が消えることはありません。1度、2度と手を染めるほど将来正常化しようとした際の損失は大きくなりますので、安直な気持ちで手を出すと後々後悔することとなるでしょう。

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